バックナンバー 中国最新情報 “タバコ税率引き上げ 喫煙大国・中国の現状!” 2015年4月号

中国最新情報 “タバコ税率引き上げ 喫煙大国・中国の現状!” 2015年4月号

 

今月の特集のタイトルにも記している通り、中国は喫煙大国です。

路上はもちろんのこと、レストランでも分煙が未だに実施されていない

ところも多く、街を歩けば火のついたままの吸殻がそこかしこに

飛び交っています。投げ捨てられる吸殻で火傷をしないよう、タバコの

匂いがしたら必要以上にパーソナルスペースを狭めず距離を取って歩く、

間合いを詰められたら警戒する、窓から投げ捨てられる可能性もあるので

頭上にもぬかりなく気を配る、などの機敏な動きと動体視力が必要になります。

公共の場での禁煙サインもここ数年でようやく広がりを見せつつある

といった情況であり、且つこれもあくまでも観光地や大都市の現状で

あるため、その他地域では未だ喫煙が風習の一部として根付いている

ところの方が多いでしょう。結婚式の贈答品には全国的にいまだに

タバコが欠かせず、海外旅行のお土産に買いだめする人も多数です。

日本含め世界的にここまで禁煙への取り締まりが強化されたのは直近

数十年でのことであり中国の取り組みだけが遅々として進まないという

わけでは決してありませんが、母体となる総人口の多さから各国の注目が

集まっていたことも確かです。そこで今回の特集では先日新たに

発表された増税政策と、中国の現状をご紹介したいと思います。

 

  • 6年ぶりのタバコ税率引き上げの詳細

 

今年5月初旬、中国では6年ぶりにタバコの税率を引き上げる旨の通知が

発表されました。

 

5月8日、財政部は5月10日よりタバコの消費税を調整する旨の通知を発表した。

(中略)同時に、国家タバコ専売局が同日に印刷し発表した通知によると、

5月10より国産タバコ及び輸入タバコの卸売り価格、推奨小売価格も時を

同じくして調整される。(中略)中国のタバコ消費税は過去4回調整されて

おり、1994年に税制が制定された後、1998年、2001年、2009年にそれぞれ

調整が実施された。過去の調整と比較し、今回の調整の最大の特徴は、

税率の調整と価格の調整が同時に実施されたことである。

中央財経大学経済研究院院長、王雍君氏は「税率と価格を連動させた

方式の最大の目的はタバコの消費をコントロールすることであり、

同時に卸売価格も調整することで小売価格に変動が反映され、

タバコ規制の効果を得ることができる」と発言している。

http://news.sina.com.cn/c/2015-05-12/003031819242.shtml?_t=t&qq-pf-to=pcqq.c2c

(2015年5月12日 新浪WEBサイト)

 

実際に小売価格に増税の結果が反映されない限り消費者の禁煙を促す

ことはできないという意見はもっともで、専門家の予測によると、

今回の増税で2015年のタバコの最終的な小売価格は昨年比で10%以上の

値上げになると試算されています。記事によると各省、市の小売価格は

既に続々と値上げされており、その価格変動はやはり10%前後であるようです。

しかしながら、単なる値上げで片付くほど中国の喫煙問題は単純では

ありません。減速したとはいえいまだ国内には好景気ムード漂う中国、

多少の値上げで禁煙に踏み切る消費者はそう多くはないのが現状です。

タバコというものがそもそも“嗜好品”、即ち“余裕の範囲内で購入するもの”

であり、毎月の予算内で量を減らすことこそあれ、完全な禁煙には至らない

とする人が圧倒的多数を占めるでしょう。私は非喫煙者のため禁煙の辛さに

ついては実感が沸きませんが、仮に規制の対象が“コーヒー”であった場合

おそらく朝はいつまでも目が覚めず、午後は午後で機嫌が急降下し、

他人のコーヒーの匂いを嗅いではそわそわと落ち着かず、たとえ一杯

数百円程度値上がりしたところで結局は予算の許す範囲内で豆やドリンクを

買い続けるであろうことは想像が付きます。しかし、一方で値上げが非常に

大きな効果を上げることができると見込まれている分野もあります。

中国のタバコの小売価格はメーカーによって大きく異なり、

目の飛び出るような価格の高級ブランドもありますが、一方で日本円で

1箱50円程度のタバコ(小売価格2.5元)もあり、価格の安さが若年の

喫煙人口の増加原因の一つではありました。

 

価格に敏感な青少年に対し、“増税による喫煙のコントロール”は大きな

効果がある。貴州市疾病制御センター健教所所長の楊澤紅氏は

『わが国のタバコは価格が安価で、中学生でも買うことができる。

タバコ税と小売価格を引き上げることで、中学生がタバコに手を出し

にくくなる』と紹介している。

(上述の同記事より抜粋)

 

中国のタバコは他国同様(自動販売機がある国は少数派です)、

小売店やコンビニでの対面による販売が主な流通経路になっています。

年齢確認はあまり徹底されておらず、身分証の提示が求められることはほぼなく、

仮にあやしまれても顔見知りや「親のお使い」という口実があれば難なく

タバコが手に入るので、価格の引き上げは確かに一定の効果があります。

もっとも、両親、双方の祖父母からお小遣いをもらい放題の裕福な

都市部の一人っ子はそこらの大人が羨むほどそのキャッシュフローは

潤沢ですので、実際の効果の程は未知数です。10元が11元になったところで、

上海市に限れば子供にとっても誤差の範囲の出費です。

子供の喫煙防止についてはもっと根本的な対策が必要でしょう。

中国はWHOの“タバコの規制に関する国際条約“世界保健機関枠組条約

(以下WHO FCTCと記載)”に2006年の1月に調印しています。

以来、一定の効果は出ているものの、中国の喫煙を死因とする死者数は

2050年に年間300万人にのぼると予測されており、喫煙人口は3億人、

残りの十数億の人口が常に副流煙の被害にさらされているという楽観視

できない情況にあります。一体何が問題なのでしょうか。

    

  • 広告規制の落とし穴とは?

 

前述の国際条約である“WHOFCTC”には様々なガイドラインが含まれて

いますが、その中に「タバコ広告」「タバコ警告表示」という項目があります。

内容はそのまま、できるだけ消費者の目にタバコの広告を触れさせず、

特に公共の場や子供が目にする箇所への広告の規制やタバコの箱に

『喫煙はあなたの健康を害する恐れがあります云々』の警告文を付ける

などの消費を抑制するための具体策です。タバコの箱への警告文の表示は

方法によっては大変効果的なのですが、現在、中国における警告文は日本と

同様に文字のみであり、写真もイラストもないので視覚によるインパクトは

ほぼないといえます。 タバコ製品がパッケージに追加する図式の

健康被害への警告は、政府がWHOFCTCの実施を確実なものにするに

あたり費用対効果が最も高い方法である。しかし、現在中国のタバコの箱

にある文字のみの中国語の警告の効果は非常に低い。十分に目立っておらず、

明確でなく、系統的な警告文や情報・写真もなく、定期的な更新もなされて

おらず、禁煙へのアドバイス等も書かれていない。

http://www.qnr.cn/med/news/yxdt/201504/1066605.html

(2015年4月20日 青年人医学教育ネット)

 

f:id:jpbd:20150701170217j:plain

 

(写真:警告が書かれたタバコ。確かにデザインと一体化しており

    全く目立ちません)

 

一方、広告については中国では1995年、すでに中華人民共和国広告法に

おいて5つのメディア(ラジオ、映画、テレビ、新聞、雑誌)及び4つの

場所(車待合室、映画館、会議室、体育スタジアム)における広告が

禁止されていますが、禁止はあくまでも“広告”だけであり、別途規定が

ない限りこれらの場所での喫煙そのものは規制されません。

また、大事な箇所なのでしつこく繰り返しますが禁止は“広告”だけ

ですので、「主人公が何かにつけてやたらと喫煙している映画やドラマ」、

「雑誌のモデルが口にくわえている葉巻」などは当然、商品名が出て

広告とみなされない限りはお咎めナシです。中国のTVドラマや映画は

ものすごく喫煙の描写が多く、特に近代をモデルにした時代劇などはその確立が

ぐんとはね上がります。禁煙の概念自体がなかった時代が舞台であり、

どうしても喫煙がファッションや嗜みの一部としてみなされていた頃の話に

なりますので一概に制作側が悪いとは言えないのですが、それでも場面が

切り替わるたびにタバコを咥えた人物が一斉に登場するドラマなどには

さすがに中国の視聴者も辟易しているようで、インターネットには

「仮に主人公がドラマの中のアクシデントで死ななかったとしても

 確実に肺ガンで死んでるな」

「1本撮るのに一体何箱吸ったんだ!?」

などという批評が流れ、2011年からはNGO団体による“脏烟灰缸奖=

汚い灰皿賞”という不名誉な賞が喫煙率の高い映画やドラマに対し贈られる

ようになりました。米国のラジー賞のタバコ版のようなものです。

 

“脏烟灰缸奖=汚い灰皿賞”についての詳細

http://baike.baidu.com/link?url=43KL52vVBhwrJzxY3dRlJ_U7zff8gYlaI1IvrinY3O1NmB9XNSM-ElgANtMRHB02949xPVSgr1r6fcicrn2gGa

(百度知道)

 

ここに出ている映画やドラマは私もいくつか見たことがありますが、

確かに思い出す限りほとんどの場面がタバコの煙にかすんでいたように

思います。人生発の喫煙に踏み切ったきっかけはここ中国も日本も

大差なく『タバコ=大人の証に見えた』『かっこよく見えた』という意見が

圧倒的多数です。小売価格の引き上げで本当に子供の喫煙が抑制できるのか、

私が疑問に思うのもこの理由のためです。どんなに箱に警告を付けようと、

TVで禁煙広告を流そうと、目の前でタバコを吸う大人が減らない限り、

中国の若い世代の喫煙率は永久に増え続けることになるでしょう。

とはいうものの、シリアスな映画の場面で突然タバコの代わりに飴や

ガムが出てきたら青少年が憧れるどころか拍子抜けするであろうことは

容易に想像が付きます。年齢層を問わず「憧れ」「面子=メンツ」という

キーワードが禁煙にはとても重要ですので、広告やメディアの力をフルに

活用し、禁煙はファッショナブルで時代の最先端である、という共通認識を

都市部だけでなく国内のすみずみまで浸透させることがタバコ問題の根本的

解決には一番効果的であると思います。

実際はもう一つ、中国の禁煙推進運動がなかなか進まない最大の理由が

あるのですが、そちらは弊社ニュースレター・ノーカット版にて

詳しくお届けさせていただきます。

 

※特集記事の内容はあくまでも筆者個人の私見であり、

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