バックナンバー 中国最新情報 “上海普通住宅新標準施行!” 2014年11月号

中国最新情報 “上海普通住宅新標準施行!” 2014年11月号

 

11月20日より、上海市では新しい“普通住宅標準”が施行され大きなニュースに

なりました。普通住宅標準とはその名称の通り「何を以って“普通住宅”とするか」

の“価格基準”であり、その金額内に納まる不動産(主にマンション)は

“普通住宅”として契約税の一部が免除されます。

上海は3本の環状線に囲まれており、内側から順番に

“内環(市の中心部)”

“中環(中心からやや外れるが短時間で行き来できる範囲)”

“外環(市の中心から遠いベッドタウン)”

に分かれ、不動産の価格も内環を頂点に外側に向かうにつれ下がる傾向があります。

但し、上海は街自体が小さく内環は既に再開発の余地もほぼ限界、

住宅や商業施設が密集しているため、不動産価格は高騰する一方であり、

外来労働力の増加につれ限りある面積の都市に許容量を超える人口が密集した

結果、不動産市場のバブルは収束に向かいつつあるとはいえ価格は一向に

下がらず、内環及び外環も不動産価格は高止まり或いは緩やかに

上昇し続けています。今回の新規定では内環の標準住宅の基準が

「450万元(≒約8,600万円)」、人民元が高騰している11月末時点の

レート換算とはいえ、日本円で8,000万円以上もする高額な不動産が

『一般』、即ち『それ以上でなければ豪宅(豪邸)とは呼ばない』と

発表されたことで中国全土でも大きな波紋を呼びました。

上海の片隅で私もニュース記事を片手に本気で“人生の意義”を真剣に

自問自答する程度には衝撃を受けました。

今回はこの新たな標準にまつわる現地の反応をご紹介したいと思います。

 

  • 新標準の内容

 

新しい標準の正式名称は《本市普通住宅標準の調整に関する通知》

(关于调整本市普通住房标准的通知)、略して“通知”と呼ばれていますが、

調整が実施されたのは今回が初めてではなく、2012年2月にも不動産価格の

高騰を受け、上限を引き上げる同様の通知が発行されています。

2014年11月発表のそれぞれの標準は下記の通りです。

 

現行標準と新標準の比較

類別

エリア

2012
上限額

2014
新上限額

普通住宅

内環

330万元

450万元≒8,600万円

中環

200万元

310万元≒6,000万円

外環外

160万元

230万元≒4,400万円

※日本円は2014年11月時点のレートで換算

 

住宅標準は2005年から新たに施行された法律であり、過去に二回の調整が

実施されているため、今年の調整で累計3度目となります。

中心部に全ての機能が密集した面積の狭い都市とはいえ、外環の外ともなれば

車でも片道約1時間かかるエリアまでが対象になり、このあたりまで来ると

周囲は蟹や魚の養殖池や畑が目立つ田舎です。また、中国のマンションは

特に記載がない限り新築の物件はすべて「毛胚(マオペイ)」と呼ばれる

コンクリートが打ちっぱなしの内装がなされていない状態で販売されます。

壁紙や照明、フローリングなどを含む内装から家具などを追加で追加の

数百~数千万円の出費を見込まなくてはなりません。

住宅の面積そのものは日本より大分大きく、90㎡~120㎡程度のマンションが

一番のボリュームゾーンとなりますが、これはあくまでも「築面積」であり、

壁の厚さ等を抜いた実際の「使用面積」は平均してその60~70%となり、

お得感は大幅に減ります。日本マンションの価格と比較すると上海の

不動産の高騰がいかに著しいかイメージいただけるのではないでしょうか。

ところで住宅標準を設ける目的は消費者の税金を優遇し、不動産市場の

活性化を図るためです。購入した不動産が『普通住宅』と認められた場合、

上海市の規定の『契約税』の税率が下がります。

 

現行の上海市不動産契約税率

類別

建築面積

その家庭唯一の
不動産か否か

契約税率

普通住宅

90㎡以下

唯一

1%

90㎡以上

唯一

1.5%

面積問わず

唯一ではない

3%

 

http://www.jiading.com.cn/article-15206-1.html

(2014年5月17日 嘉定都市網)

※表は記事中より抜粋しSGSにて作成

 

普通住宅の条件は

1、5階建て以上の高層マンション及び5階建て以下の旧式集合住宅など

(一戸建てのヴィラなどは当然対象外となります)

2、単独建築面積が140㎡以下

(あまりに広い部屋は普通住宅とはみなされません)

3、前述の表の各エリアの上限価格以内であること

(高額物件は“普通”の範囲外です)

の3つの条件を満たしていることが前提となり、またその家庭の唯一の

不動産であるか否かが審査の対象となります。二戸目からは投資対象と

みなされ優遇はありません。通常の契約税が3%、条件を満たした普通住宅の

契約税が1.5%のため、申請が認可されれば1.5%の節約になる計算です。

割合だけ見ると一見大して変わらないのですが何しろ不動産そのものが

高いので内環の上限450万元で計算すると67,500元、日本円にして約130万円

もの節約になります。昨今は中央銀行の発表により久しぶりに銀行基準金利も

引き下げされ、住宅ローン金利を下げた銀行が多いことから誰もが

不動産市場の活性化を予測していました。

ところが実際にフタを開けてみると期待していた大幅な伸びはなく、

値動きも契約数もほぼ変わらないという意外な結果に。

一体なぜなのでしょうか。

 

  • 効果のほどは?

 

130万円の節約。日本の感覚では「車が一台買える!」と大喜びの金額ですが、

上海は不動産だけでなく物価そのものが高騰していることを考慮する

必要があります。130万円では自動車のナンバープレートしか買えません

(11月現在約7万元台~)。家具もマンション一戸分をそろえるには心もとない

金額、おしゃれな家具は買えません。従って「数千万円の買い物を促すに足る

優遇ではない」というのが私の率直な感想です。

しかし不動産市場が活性化しなかった最大の理由は実は他にあります。

 

記者が松江(上海西部の郊外)の不動産仲介業者で確認したところ、

ローン政策と住宅標準の調整で来客数は増えたものの、不動産のオーナーにも

自信を与えたため、値段交渉の際も大幅な値引きには応じず、交渉の余地は

非常に少ない。230万元の普通住宅であっても値引き額は3~5万元程度であり、

200万元以内の物件になるとその金額は更に小額になる。

http://news.163.com/14/1120/10/ABG506NA00014SEH.html

(2014年11月20日 網易ネット)

 

上述部分で紹介されているのは郊外二手房(=中古物件)の情況ですが、

市の中心部はオーナーやディベロッパーとの価格交渉よりもっと根本的な

問題に直面しています。

 

鎮寧路(上海市静安区と長寧区を跨ぐ中心地区)の不動産仲介業者の社員に

よると、この地区では普通住宅標準の改正による影響はほぼない。鎮寧路には

旧式の小型物件が比較的多いとは言うものの、内環エリアでは二部屋以上の

ごく普通のマンションでも最低500万元前後は必要であり、450万元の標準を

満たすような物件はほぼない。

(上述の記事より翻訳)

 

記事になった内容は事実であり、上海の中心部のマンションは新築に

限って言えば日本円で1億円前後が最低ライン、標準内に収まるような

物件はよほど古い中古物件か一人用のワンルームマンションなどを探す

しかありません。また、そもそも市の中心に居を構えるような消費者は

経済的に恵まれており不動産も複数所有しているケースがほとんどのため

税金の優遇対象にはならず、またこのような富裕層になるとたかが1.5%の

優遇を気にすることはまずないため促進剤としての効果はほぼゼロと

言ってよいでしょう。

さて、現状を調べれば調べるほど冒頭の「私は何のために生きているのか」と

部屋の隅で地面に「の」の字を書きたくなるような経済事情が明らかになる

上海ですが、最後にもう一度、地に足を付けて冷静に考えて見ましょう。

上海の不動産は本当にその価格に値するのでしょうか?

 

  • それだけの価値はあるのか?

 

今月、竣工後間もない15階建てマンションがビルごと傾き、隣の棟に

寄りかかる状態になった写真が報道され、上海で非常に大きなニュースに

なりました。また、そのマンションの所在地が先日の特集でも取り上げた

ディズニーランド建設に伴い不動産が高騰し始めた「川沙」地区であった

ことから、連日その様子がテレビやネットで取り上げられています。

写真は下記、リンク先の記事でご覧いただけます。

 

ディベロッパーの責任者は記者に対し、現時点で建築に問題が存在する

とは言えず、ビルが傾いたのは自然沈下の結果であると回答。また、

川沙鎮の(政府)関連部門の責任者も今のところ、居住者の移転は考えて

いないとコメントし、同済大学の専門家に測量を依頼すると発表した。

http://sh.eastday.com/m/20141125/u1a8459628.html

(11月25日 東方ネット)

 

上海は長江デルタの水を大量に含んだ砂や泥が地盤になっています。

これは例えるとやわらかい豆腐の上に高層ビルを建てるようなもので、

綿密な調査と高度な技術を組み合わせて初めて堅牢な建築物が出来ます。

こちらの高層ビルはその建築のスピードで非常に有名であり、大量の

マンパワーを投入し、工期短縮のため8時間×3交代制で24時間施行を続ける

ことがほとんどですが、完成を急ぐあまり品質が下がったり、外注に外注を

重ね無数の下請け会社が層を成した結果、利益を上げるために安い材料を

使ったりといった問題が次第に表面化してきました。

上海では結婚にはマイホームの購入が必須という習慣が根強いこともあり、

不動産に対する考え方が日本のそれとは根本的に異なります。

「いつかは夢の一戸建て」「人生の目標」という考えはほぼ見られず、

不動産はあくまで投資の対象であり良い物件があればすぐさま乗り換えます。

まずは頭金をかき集めてローンを組み一戸目購入、転売でキャピタルゲインを

稼ぎより大きな物件への乗り換えを繰り返して資本を増やし、所有物件の

数も増やして老後はインカムゲインでリタイア生活、というアグレッシブな

スタイルが大多数の人が実施している投資の形です。

強制立ち退きで配布された家だから、貸してしまうから、数年以内に

転売するから、とさほどの思い入れはないとは言え、数千万円から

一億円以上の物件で安全面にこれだけ大きな問題が発生すると

そのマンションだけでなく、不動産業界全体や周辺地区の発展計画への

影響は計り知れず、政府や関係者が必死に「問題なし」とのコメントを

繰り返す理由もここにあります。

私自身も不動産ローンを抱えていますが、物件の引渡し時にはそれこそ

舐めるようにマンションを審査しましたが散々チェックを入れた新築物件

だったにも関わらず、数年経った現在も水回りを中心にこまごました問題が

後から後から出てきました。『砂上の楼閣ならぬ豆腐上の楼閣』という

一点を十分に考慮し物件の安全面、ロケーションや周辺のリサーチも必須の

買い物となると多少の政策の緩和が即座に市場に反映されることはないでしょう。

但しその反面、外来人口は引き続き増加傾向にあり、住宅の需要は依然として

高いまま、急激な値崩れも価格の頭打ちのいずれも考えがたく、不動産は

今後も引き続き堅実な投資の選択肢の地位を確保することになりそうです。

 

※特集記事の内容はあくまでも筆者個人の私見であり、

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