バックナンバー 中国最新情報 “ついに減税、中国の輸入品関税引き下げ!” 2015年5月号

中国最新情報 ”ついに減税、中国の輸入品関税引き下げ!” 2015年5月号

 

中国で反腐敗運動が始まって以来、中国の消費経済が減速した“

かのように”見えていることから一部国外では

「いよいよ中国の好景気も終焉」などという報道がなされているようですが、

現地で暮らす私が見る限り、このような報道には違和感しか感じません。

上海では先週まで数年ぶりの株のバブルが再発し、その後歴史的暴落を

記録したものの、不動産も高級車の販売も息を吹き返しました。

中国の人が買い物をしなくなったり出費を抑えたりしている様子は一切

感じられず、実際はむしろその逆であり、総合出費は間違いなく増加して

います。反腐がキーワードになってから「いかにこっそりお金を使うか」が

消費のポイントになっていることは過去にもご紹介しましたが、私が勝手に

“ステルス消費”と呼んでいる“こっそり消費”の最たるものが

海外における買い物です。買い物といっても買うのは化粧品だけではなく、

不動産やワイナリー、果てはグリーンカード(移民権)などまで買い物

リストに含まれます。HSBCの報告によると、現在世界の贅沢品の1/3は

中国人が購入しているそうで、しかもそのさらに2/3は海外での消費だそうです。

この中には当然、前述の大額の買い物も含まれて居ますが、統計の大部分を

支えているのは一般の旅行者や、また「代购(ダイゴウ)」と呼ばれる

個人輸入を通じて国内で海外の商品を購入している一般市民です。

地価や人件費の高騰で価格が高くなった国産品より安くて安全な輸入品へと

客足は取られるばかり、

『株の暴落を受け、上海のデパートも閑散としています』

などと報道するニュースを横目に地元の皆さんは

「誰がデパートで高い国産品なんか買うか」

「儲けたお金でヨーロッパに行こう!」と盛り上がっています。

国外の報道が「経済崩壊」と早とちりするのも無理はありません。

そこで今回、反腐運動で落ち込んだ中国国内の消費を取り戻すべく、

中国政府によるある法律が施行されることになりました。

今月ははこの法律についてご紹介したいと思います。

 

  • ついに減税に踏み切った中国!何がどう変わるのか?

 

4月28日に開催された国務院常務会議において、国内の消費者の選択肢を

より豊富にするため、政府は消費者品の輸出入税政策の改善を提出した。

(中略)具体的方案には下記いくつかの点が含まれる。

 

  • 国内消費者の膨大な海外日用品の需要に対し、今年の6月から試験的に輸入税を減税、段階的に減税商品の範囲を拡大していく。
  • 衣類、化粧品などの消費者品の税策、徴税範囲、税率やそのフローを改革する。
  • 入国免税店を増設・復活させ、免税品の種類を拡大し、免税購入額を引き上げる。
  • 海外旅行客の通関と税金の払い戻しを簡略化。輸入品の非合理的な徴収費を一掃する。
  • 中国国産ブランドの向上。実店舗の発展の支持し、オン・オフラインの相互交流を実現。ニセモノを厳罰化し、市場に秩序をもたらす。

http://news.xinhuanet.com/fortune/2015-05/04/c_127760514.htm

(2015年5月4日 新華網)

※上記内容は記事を元に内容の要点だけを簡略化し、翻訳。

 

ちょっと長いので大分端折りましたが、これだけの具体案が出ている

ことから政府の本気度が伺えます。国外にお住まいの方にはなかなか

想像が付かないと思いますが、中国の輸入品の高額さというのは我々

外国人の日々の生活を直撃する、信じられないほどの高さです。

食品を例にしますと、チーズやパスタ、調味料などの輸入品の価格に

ついては『日本の成城○井や明●屋などで輸入食品を買う値段×1.2~1.5倍』

をご想像いただければ概ね正解です。本国で2ユーロ前後のチーズが

1個1,500円などというのはザラであり、『この価格差は何だ!』と

海外旅行が一般化した現在、国内が怨嗟の声に包まれています。

関税が高いことが一番の原因ではあるのですが、食品や化粧品に限らず

中国の問題は上記一覧の4、「非合理的な徴収費」が一番のボトルネックです。

商品の輸入後、一般消費者の手に渡る店頭に並ぶまで国内で輸入代理店や

販売代理店が層を成し、マージンがどんどん乗せられていき、最後に

恐ろしく高い店舗の賃料を上乗せした結果が、牛乳1パック1,000円など

というふざけた値段です。

 

あるブランドの中国国内における責任者は、一刻も早く効率的で低コストな

販売ルートを構築することが輸入商品の国内販売価格の定価につながり、

『欧米の販売員の給与は中国よりはるかに高い。しかし中国の流通ルートは

一層ごとに費用が加算され、販売費、コミッション、キックバック等の

業界の明確な規則、そして不文律が経営コストを上げている』とコメント。

(上述の同記事より抜粋)

 

今回の法律の発表を受けて、中国各地では試験的に保税区や一部の地域などで

すでに大分減税の恩恵を受けた価格の商品が販売されているようです。

但し、実店舗にはやはり限界があります。上海では昨年、本ニュースレター

でもご紹介の「自由貿易区」ができた段階ですでに同じコンセプトの

免税日用品店が出来ていましたが、TVの取材でも実際に足を運んだ人の

感想を聞いても答えは一緒で「品物が売り切れてて、何も買えなかった」と

怒り心頭でした。冷凍のカニやサーモンをはるばる遠くから車で乗り付けた

上海の顧客が店内で奪い合う様子が特集で放送されていたとおり、実店舗は

在庫の数もさばききれる顧客数もどうしても制限がかかります。

そこで自然、視線はオンラインに向くのですが、中国ではタオバオに

代表されるように法律が変わる以前からとっくに免税価格以下のC to C

販売が隆盛を極めています。新法によってこれらオンラインの

プラットフォームは打撃を受けるのでしょうか?

 

  • オンラインの販売店は打撃を受けるか?

 

タオバオの販売は私自身、特に化粧品の購入などでよく利用します。

欧米本国でしか発売されない限定品が、人民元決済で即刻手に入るからです。

売り手はそのほとんどが留学生や移民で海外に移った人などで、お小遣い

稼ぎに片手間に販売している人もいればプロのバイヤーとしてタオバオ

一本で食べており、現地のデパートでVIP待遇を受けながら

そのシーズンの新作を山のように購入し、在庫を抱えて転売している人もいます。

価格は若干の手数料を取られるものの、免税店よりはるかに安く、

セールシーズンになると本国の定価とほぼ同じ価格で出回ります。

飛行機で買いに行くよりずっとお買い得です。

食品、衣類、薬品まで何でも揃うネットはタオバオに限ったことではなく、

他にも色々なEコマースがそれぞれに特価した分野で手広く業務を展開して

おり、また中国都市部では若年層だけでなくお年寄りにも驚くほどの割合で

PCやタブレットが普及していますので、すでに年代を問わず買い物=ネット

という意識が根付いています。今回、国内の実店舗における輸入品の販売額が

下がったことでこれらネットショッピングが打撃を受けることが懸念されて

いましたが、この影響もプロのバイヤーと学生や会社員で薄利多売を

主としている“副業”バイヤーとではその度合いが大きく異なります。

 

タオバオでイタリアの「代购」を5年間続けている樊(ファン)氏は、

今年の6月末から始まる減税については『無視しても差し支えない』と

率直に答えた。樊氏は国内の輸入商品が高額なのは関税以外に人件費、

物流費、店舗リース料などが原因であると考えており、国内の販売店の

多くの化粧品の価格は海外の2-3倍である。また、長期的に提携している

海外ブランドは定価から更なる割引きを受けられるので、「代购」は価格的に

優位であるとコメントした。しかし、彼女には別の心配もあり、

「減税は自分達の仕入れ価格には影響しないものの、正規の輸入手続き

を踏む大手がより安い価格を(ブランドから)オファーされることになる

ので、市場の競争は厳しくなるだろう」と予測している。

http://www.xfrb.com.cn/xfrbdzb/news/2015/05/11/14313105913250.htm

(2015年5月11日 消費日報網)

 

上述の記事にはもう一人、副業で「代购」をしていた学生のインタビューも

掲載されていましたが、こちらはすでに打撃を受けており、両者の話を

まとめるとポイントは

  • 実店舗を構えて販売しているデパートや店はもはや敵ではない。必ず勝てる。
  • 問題は“ボリュームディスカウント”の幅であり、ネットへの大手の参入は脅威である。

という2点に集約されます。本特集の前半でご紹介の通り、

中国政府としてはどうしても地価水準の維持や雇用の確保の観点から

「実店舗」をサポートしたいようなのですが、現在の中国の地価や

給与水準ではコストの面でネットに太刀打ちすることはまず無理です。

大手のネットへの参入についてはもう、消費者の嗜好の問題です。

ニセモノを売るような悪質なCtoCが淘汰されるのはともかく、特に

化粧品や衣類については何もわからない新人の店員に中途半端に勧められる

より、自分自身も服や化粧品が好きな店主とあれこれ相談しながら決めて

購入するほうが満足度は高く、これはネットでも実店舗と全くかわりません。

贅沢品や輸入品が実店舗で売れないのは、ブランド店で何も分からぬ店員に

『これは○○製です』『輸入品です』『シルクです』『シーズン最新作です』

しか言わせずやる気のない接客をさせていたことも無関係ではないと思います。

結局は「他店との差別化」「サービスの向上」という何の代わり映えもない

結論に落ち着きますが、いよいよ中国の市場が“とにかく0.1元まで値段勝負”

一辺倒の時代から脱却し、“価格もサービスも重視”という層が現れたことを

考えると、すでに入り込む隙はないように見えるオンラインショッピングにも

ビジネスチャンスを見出すことができるのではないでしょうか。

但し、ここで、勘違いして「おもてなしの心!電話対応を強化!」

「いいものなら高くても確実に売れる!」などと自己解釈してお門違いな事を

始めても何の効果もありませんので、そのあたりは中国現地の消費者の心理を

よく研究した上で、もっと実利的な付加価値をつけていくことが

必要になるのではないかと思います。

 

※特集記事の内容はあくまでも筆者個人の私見であり、

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