バックナンバー 中国最新情報 “中国のチャリティの現状とその問題点!” 2014年8月号

中国最新情報 “中国のチャリティの現状とその問題点!” 2014年8月号

 

中国・上海は今年、冷夏であるにもかかわらず巷は世界的に大流行している

“冰桶挑战”=アイス・バケット・チャレンジ、頭からバケツ一杯の氷水をかぶる

例のチャリティの話題でもちきりです。記録的旱魃に悩む中国の一部地域から

水の浪費と反対が出てはいるものの流行は止まらず、中国国内ではタレントや

企業家が次々と氷水をかぶっては日々テレビやネットをにぎわしています。

中国ではまだ欧米ほどではないとはいえ、チャリティ=慈善活動が注目されて

います。寄せられる募金も救うべき対象の数も桁違いである上ここ数年災害が

続いたこと、そしてこれから世界に進出しようとする中国の著名企業の

CSRやブランディング、広報活動上の需要がぴたりと一致しているからです。

ところで、中国のチャリティを語る上で絶対に欠かせない人物が今月末

TVに出演しており私は元々予定していた戸籍法改正のニュースを急遽

このトピックに差し替えました。

今月は中国のチャリティと、そのシステムが抱える問題についてご紹介します。

 

  • 中国慈善活動の“顔” 陳光標氏とは何者か?

 

16トンもの人民元の札束を積み上げて記者会見。ぴかぴかのベンツの新車を

おもりを付けたクレーンで打ち壊し環境保護を訴える。100名の社員に

自転車を買い与えローカーボン通勤をアピールするため隊列を組んで市内を

走る。かつてこんな慈善家が存在したでしょうか。

少なくとも中国国内において応えは否です。一代で巨万の富を成した

リサイクル事業を営む見せびらかしモード全開の慈善家、それが陳光標氏です。

日本の地震の際も寄付金を持って(現金で)来てくれたので、ネット等で

報道をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。彼のチャリティ活動は

その金額も規模も桁違いであり、2008年四川大地震の際には億単位の

人民元とともに60台のパワーショベルを寄付するなど、意義ある行動も

多々あるのですがとにかくその奇抜な方法と大掛かりな宣伝活動のため

「出たがり」「ただの売名行為」など賛否が真っ二つに分かれている

人物でもあります。前述の“奇抜な行動”が一体どの程度奇抜なのか、

ここで具体例をご紹介しましょう。

 

“中国慈善家の第一人者”のと称される陳光標氏が貴州でチャリティ

コンサートを開催。入場料が無料なだけでなく、コンサートの最後まで

歌を聞いた観客には豚一匹、羊一匹が無料で提供された。

http://news.163.com/11/0926/07/7ES3KUNK00014AED.html

(2011年9月26日 易網新聞)

 

写真の真ん中でマイクを持っているのが陳氏、その前はそうです、

記念品の羊です。当時このニュースは大変な話題になりました。

陳氏の歌があまりにもまずかったのも原因の一つですが、コンサートに

する必要はあるのか?チャリティと自己満足の境界は?と大論争に

なりました。私もニュースで報道を目にし、歌のまずさもしかと確認

しましたがテレビのインタビューに『すごい音痴だった!』と笑顔で

回答しつつ手には生きた豚を抱えたまま去った来場者、舞台から

はみ出し客席をうろつく豚と羊、マイク片手にご満悦の陳氏という

混沌とした画面を私はおそらく一生忘れることはないでしょう。

上海で生きたニワトリを地下鉄に持ち込んでうっかり逃がしてしまい、

低空飛行するニワトリと車両を跨ぐ大捕物を展開した人と乗り合わせた時

以上の衝撃でした。

(2005年当時。その後、珍しく協調性をフルに発揮した乗客達の活躍で無事捕獲)

ローマの暴君ネロ然り、ドラえもんのジャイアン然り、何故人は権力を

手にするとリサイタルを開きたがるのでしょうか。

ご本人曰く「派手な演出をするのは、他の企業家や富裕層にもチャリティの

意識を持ってもらうため」だそうですが、一事が万事この調子のため、

陳氏が支持を得る一方で日々多くの批判にも晒されているのは前述の

通りです。但しその批判に対してもこれまた賛否両論が分かれています。

一体どのような情況なのでしょうか。

 

  • 強制寄付“逼捐”の社会問題化

 

慈善家が寄付をすると決めた場合、一体誰にそのお金を寄付するのか。

決定権は寄付をする側にあるのか、それとも別の基準に基づいて選ぶべきなのか。

8月25日のTV番組ではこの問題をめぐって陳氏と長期間争っていた当事者

二人が弁護士の立会いの下、討論を繰り広げました。

経緯を箇条書きにまとめます。

 

  • 血友病の息子のため出稼ぎに出ている安徽省の姜氏を苦境を知り、

  同郷のボランティア活動家・張芸冬氏が陳氏に援助を頼むことを思いつく。

  • ところが毎日何百件と援助の求めを受けている陳氏からよい返事が得られず、

   張氏が南京の陳氏の会社の前で長時間膝まづいて援助を請う。この様子が

   報道され、メディアが陳氏と張氏両者への批判と弁護で沸く。

  • 陳氏、援助に同意。但し要求の20万元ではなく、20万元相当の陳氏自らのブランドの飲料を提供。張氏、姜氏はこれに抗議。中でも姜氏は援助が得られなかったとして北京の大通りで『陳光標と張芸冬は詐欺師!』との垂れ幕を掲げ抗議、これが再度報道され、陳氏、張氏、姜氏それぞれへの批判と弁護でメディアが再度沸く。
  • メディアの沸騰を受け、陳氏、張氏に「人助けをしたいのであれば起業の資本金を数年間無利息で貸す」とオファー、張氏はこれを拒否。

(2014年8月25日放送 東方衛視“東方直播室”の内容より)

 

f:id:jpbd:20150630165038j:plain

 (写真:同、TV番組放送時の画面。左側が陳氏、右側が張氏)

 

この事件が全て事実であれば、私は本件に関しては陳氏に非はないと思います。

張氏は「現物を支給されても販売ルートがない」と主張しますが、

何から何まで他力本願な姿勢はいかがなものでしょうか。姜氏に至っては

陳氏と直接の面識すらないのに「約束が守られなかった」と逆恨みするのは

明らかにやりすぎです。番組ではとある弁護士が陳氏に「あなたは緊急に

治療が必要な人物への20万元を惜しむのに、急ぎもしない起業資金は

すぐに提供するのか」と詰め寄りましたが、これも理屈が通りません。

緊急度を軸に寄付を決めたのでは先端医療や宇宙科学の研究は永遠に後回しです。

誰に寄付をするかは援助をする側に決定権があるはずです。

ところが貧富の差があまりにも開きすぎている中国では「逼捐=強制寄付」を

要求する風潮が最近顕著になってきており、いつ誰に矛先が向くか全く予測が

できません。2008年四川大地震の際は寄付をしていない大手企業や歌手、

俳優などに抗議が殺到し、寄付をしたらしたで「たったこれだけしか寄付

しないのか!」と問題が泥沼化。こうなるともう本来のチャリティの

目的から離れ、寄付が保身の必要経費と化してしまいます。

また、最近では政府が必要な行政プロジェクトを進める際に配下の公務員に

資金をタカる・・・いえ、ええと、“協力を要請する”「行政逼捐」が問題化

しています。

 

先日、広東東ガン市大朗鎮の“教育募金強制分担参考標準”がメディアで

報道された。「正科6,000元、副科5,000元、正股(副股)3,000元、

その他公務員他2,000元」(中略)行政募金は“税収”制に基づく社会福利

であり、このように政府が社会福利に関与する思想が一度慣例とされて

しまうと、社会福利事業の独立性が失われ、これらの資金が一部の地方

政府の“第二税収”の一部とされてしまう可能性が高い。

(2014年8月23日 新浪新聞)

http://news.sina.com.cn/c/2014-08-23/113930732364.shtml

 

~科、~股というのは公務員の職位の呼称です。

職級ごとに募金額を決められたのでは断りようがありません。

一般企業ならまだしも終身雇用の公務員はまず無理です。

政府がタカる・・・いえ、えー、“寄付を呼びかける”相手はもちろん

自分の配下である公務員だけでなく、民間の企業も当然ながらその

対象になります。身内でない分、更に容赦のない協力要請が出されるでしょう。

 

「職権濫用」は「権力と金銭の取引」を更に隠蔽してしまう。

寄付の多い企業は地方政府にとって“よい子”であり、今後“奨励政策”の

恩恵を受けることができ、寄付が少ない或いは寄付をしない企業には

各種の“潜在的障害”が設けられる。

(上述の記事、長年不動産業界を取材している記者のコメントより)

 

法の整備や意識改革が待たれるところですが、本来法を整備する側が実は

問題の巣窟だったというなんとも頭の痛い現状です。

 

  • チャリティの最大の問題は何か?

 

皆様ご周知のように、寄付を主とするチャリティの目的は人道支援だけでは

ありません。もちろん、中には心から社会のためを思って寄付をする熱心な

活動家も存在しますが全てのチャリティがそのような目的で実施されている

わけではありません。

 

1、税金対策

2、富裕層が後ろめたさを感じることなく消費する口実

3、企業の宣伝、CSRの一貫

4、マネーロンダリング

 

と、思いつくだけでもいくつかの目的が浮かび上がります。

4は問題ですが1から3は合法であり、わたしもこれらに悪い印象は全く

抱いておりません。

陳光標氏のチャリティの真の目的は一体何なのでしょうか。

今回のTV番組は前半が2でご紹介の討論、後半が陳氏に無謀なチャレンジを

強いるお笑い要素の強い内容となっていました。大金をバラまくことに慣れて

いる陳氏に対し「500元(≒8,000円)で3人を助ける」という難題を出し、

タクシーを運転したり中古の洗濯機を値切りにいったりする様子に密着。

表示されるテロップも

『地下鉄に一度も乗ったことがない46歳、中国籍男性!』

『中国慈善活動界の美男子・・・??(自意識が高いのはいいことかもしれない)』

など容赦のないツッコミぶり。自宅の内部までカメラが入っていることから

番組そのものが陳氏の同意と監修の下作られたことは明らかであり、

自分を貶めて笑いを取るいわゆる「自虐ネタ」を地上波で流す様子からは

慈善家というより実業家の執念を感じました。

前半の討論さえ全ては彼が仕組んで買い取った壮大な「やらせ」ではと

勘繰ったほどです。番組には陳氏の11歳の息子さんも出演。

その名も「陳環保」=環境保護くんです。

日本語では違和ナシですが、中国語では『陳エコ太郎』くらいのインパクトが

あります。 エコ・コンシャスでクール!と取るか、キラキラネームと

紙一重?ととるか、環保を皇堡(バーガーキングの巨大バーガー“ワッパー”の

中国名)発音と声調が類似と間違えたような私に判断する資格はありません。

ただ、家業の宣伝には有利でしょう。

さて、仮に陳氏の目的が本当に宣伝であったとしても、寄付金が(おそらく)

クリーンなお金であることは概ね予測が付きます。

陳氏は立ち退き工事を請け負う事業を展開しており、工事に加え立ち退き時の

廃材回収再販事業で規模を拡大、そしてさらにその廃材を再加工し

リサイクル建材として販売し財を成しました。元々儲けが多い業界で

大成功した人ですので、大金の出所について疑問視する声は国内でも

あまり聞かれず、

「彼の商才とこの業界・この規模の会社なら妥当な収入」

というのが大多数の判断です。しかし何よりの成功の秘訣は、陳氏が中国政府の

インフラ整備に伴う大型プロジェクトを多数請け負っていたことです。

請け負い業者一社だけでこれだけの寄付ができるほどの利益が出るという

ことはプロジェクトの全体予算は一体どのような編成になっているのか。

陳氏のような寄付をしていない類似企業はどのくらい存在し、利益は

いくらになるのか。それらの利益の行き先は?

中国チャリティの最大の問題とは何か?

断片的な情報がそろそろ一本の線で繋がるのではないでしょうか。

真相は全く不明です。世の中は誰もが知っているけれども敢えて誰も

口にしないトピックで溢れていますので、今回は結論を述べずに結びと

させていただきます。

 

※特集記事の内容はあくまでも筆者個人の私見であり、

 弊社の社としての見解を示すものではございません。

※記事の著作権は筆者及び筆者の所属先に属するものであり、

 無断転載は固くお断りします。