バックナンバー 中国最新情報 “中国「新・消費者権益保護法」と「覇王条款」!” 2014年3月号

中国最新情報 “中国「新・消費者権益保護法」と「覇王条款」!” 

2014年3月号

 

3月15日、中国で新しい「消費者権益保護法」が正式に施行されました。

 “過去20年間における初めての全面改訂!”とメディアでも大きく報道

されただけあり、かなり大幅な変更と追加が実施されています。

通常、法令法規の改定は毎月1日の発表が慣例ですが、今回は前例のない

“消費者権益保護デー”に発表し、消費者の注目を集めるというプロモーションの

徹底からも、中国政府の力の入れようが伺えます。

一見日常生活、特に在留邦人の生活にはあまり関連がないようにも思えますが、

私のようにネットで安物を物色しては失敗し、レストランで会計明細を見てから

ようやく何を頼んだか思い出すような人間には密接に関わる重要な法律です。

今月の特集では、本法をとりまく話題のトピックについてご紹介します。

 

1、どこが変わったのか?

新「消費者権益保護法」(以下、『新消法』)の具体的な改訂点については

昨年2013年10月25日の全国人民代表大会常務委員会にて可決された

決議の本文で一覧をご覧いただけます。

 

全国人民代表大会常務委員会《中華人民共和国消費者権益保護法》の

改訂に関する決定:全文 

http://www.gov.cn/flfg/2013-10/25/content_2516547.htm

(2013年10月25日 中華人民共和国人民中央政府公式WEBサイト掲示)

 

とはいえ、全文を読むのは骨が折れますのでポイントを絞ってまとめますと、

下記の5つが今回の改訂の要点といえます。

 

その1:通信販売商品の「7日以内の理由なき返品権」明文化

その2:リコールの義務の明確化

その3:争議の際の販売者の証拠提出義務

その4:「覇王条款」の禁止

その5:虚偽広告の連帯責任

 

※以上、下記の記事を参考に記事作成。

http://finance.qq.com/a/20140315/003380.htm

(2014年3月15日 騰訊財経)

 

その5の“広告の連帯責任”とは、主に著名人・芸能人がタイアップしたCMを

取り締まる目的で制定されたものです。以前は明らかな虚偽、誇張が存在する

CMで出演料を得ていた芸能人に対する明確な処罰制度がなく、

責任が追求されませんでした。私自身、パッと思いつくだけでも“髪が太くなる!”

“髪が増える、生えてくる!”など、本当であればノーベル賞クラスの世紀の大発見

であろう効能を堂々とうたったシャンプーの広告などを日々目にしており、

今後はこれらのケースも出演者が連帯責任を負うことになると解釈されています。

本法の制定にあたり、誇大広告例として真っ先にシャンプーのCMが浮かんだのは

どうやら政府も同様であったらしく、関連部門も

→ ふさふさの黒髪をなびかせた芸能人がシャンプーの広告に出演

→ レッドカーペットでカツラが落ちた姿を激写される 

→ 虚偽広告の連帯責任で逮捕される

というスートーリーをアニメーションに仕立て、現在TVのゴールデンタイムに

『新消法』普及のための広告として放送しています。

 

さて、上記5つの改訂点はいずれも各業界に大きな影響を与え得る変更ですが、

虚偽広告の連帯責任よりも大きな騒ぎになっているのが4の「覇王条款」です。

TVでは連日特集が組まれ、新聞やネットでも賛否両論が飛び交っています。

では、この「覇王条款」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?

 

2、「覇王条款」とその具体例

 

中国語で“食い逃げ”を“覇王餐”と記したり、“霸道行為”が犬棒かるたで言う

「無理が通れば道理ひっこむ」に該当する迷惑行為であったり、

どうも「覇」という字にはプラス面以外にも色々なイメージがあるようです。

“覇王条款”とは、消費者に一方的に責任を押し付ける不平等な条約を指し、

具体的には下記のような条約がこの範疇に含まれます。

 

『酒類・飲料の当店への持ち込みはご遠慮ください』

『持込みの酒類については、費用を徴収します』

『箸の消毒費として、費用を徴収します』

『個室の貸切には最低消費額を設けております』

『お手荷物の紛失等発生した場合、当店では一切の責を負いません』

『領収書は発行できません』   などなど

 

すでにお気づきと思いますが、これらのほとんどが飲食店で見られるものです。

本来“覇王条款”にはありとあらゆるアンフェアな取り決めが含まれますが、

今回の法改正で論争の的となっているのは、主にサービス業で見受けられる

上述の規定です。中国のにお住まいの皆様にはおなじみのものばかりでしょう。

各都市の消費者協会が実施した調査でも、以前からこれらの取り決めには

消費者から大量のクレームが寄せられていたことが明らかになっています。

 

3月6日までに15.4万人/回近くが参加し、調査は主にWEBで実施された。

(中略)調査結果によると、“消費者が権利侵害に遭いやすい業界”の中で

食品・飲食業界が14の業界のトップであった。

http://news.xinhuanet.com/food/2014-03/19/c_126285668.htm

(2014年3月19日 新華ネット)

 

『新消法』の普及に先駆けて、サービス業の“覇王条款”に対しては

日本の最高裁にあたる最高人民法院より、2013年2月14日、

改正法の施行に先駆けて正式にコメントが発表されています。

 

最高人民法院は(2月)14日、飲食業の“酒類・飲料の持ち込み禁止”等は

サービス契約における“覇王条款”であり、飲食業が自らの優位性を利用した

消費者への飲食サービス提供過程における不公平で不合理な規定と表明した。

http://www.court.gov.cn/xwzx/yw/201402/t20140217_192632.htm

(2014年2月17日 最高人民法院公式WEBサイト)

 

今回法が整備されたことで消費者の権益は保護され、当初の予定では

施行の段階ですべてがめでたく一件落着となるはずでした。

ところが実際は飲食業界から猛烈な反発があっただけでなく、多くの飲食店が

依然として非公式に“覇王条款”を運用し続けており、早くも法律が空文と化す

異常な事態が発生しています。一体何故なのでしょうか。

 

3、「覇王条款」は何故なくならないのか?

 

中国青年報社会調査センターが32,779人に対し実施した調査によると、95.3%の

回答者が周囲の飲食業には依然として“覇王条款”が存在していると回答した。

 

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 ※グラフは記事を元に作成

http://finance.qq.com/a/20140318/003633.htm

(2014年3月18日 騰訊ネット)

 

ここで、今度は消費者ではなく店側の立場に立って再考してみましょう。

前号2月のニュースレター特集 “富裕層はどこへ?”にて、中国国内の

贅沢品消費の落ち込みと同時に「会所」、即ち会員制クラブの形を取った

高級レストランが次々に閉鎖に追い込まれている現状をご紹介しました。

ただでさえ倹約令で高額の接待自体が粛清の対象となっている現状下で

飲食業への更なる打撃となる『新消法』が発表されたことから、

業界からの猛反発は当然の結果と言えます。

更に昨年12月のニュースレター特集に最低賃金の推移グラフを掲載したように、

人件費が高騰している中国では飲食店の利ざやは削られる一方であり

利益率の高い酒類の販売がなければ経営が立ち行かない店も少なくありません。

また、仮に持ち込みを可とするとしても「どこまでを常識の範囲にするか」の

線引きが個人によって大きく異なるもの問題です。

極端な例を出せば、厳密に『新消法』を解釈すると、少人数でレストランの個室を

無料で陣取り、ビールをケースごと持ち込み、料理はほとんど頼まずに延々と

酒盛りをしていてもよいことになり、これでは飲食店は収入を確保できません。

また、持込が解禁されると食中毒等の問題が発生した場合、責任の所在を

明確にできないことも今後大きな論争を招く原因になると思われます。

過去、中国では個室に数千元もの最低消費が設けられていたり、持ち込んだ

ワインより遥かに高額な「開瓶費=持ち込み料」がチャージされたりといった

明らかに不合理な現象がはびこっており、『新消法』は本来これらの悪質な業者の

取締りを目的としていましたが、様々なケースを想定した細則が設けられておらず

「一律禁止」とされたことにより、業界全体の反感を招いた結果となりました。

また、罰則や罰金の規程も完全ではなく、違反を告発し権利が保護されるまでの

プロセスも煩雑であり、上述の記事でも

『消費者にとってたった一回の食事のために時間をかけて店側と話し合い、

場合によっては裁判に持ち込むなどという行動は非現実的である』

とコメントが記されています。

中国の法律はまず大まかな枠組みが発表され、その後一定の期間を置いて

細則が発表されるのが常であり、『新消法』の完全化には今後も長い時間を

要すると思われます。

 

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