バックナンバー 中国最新情報 “富裕層はどこへ?” 2014年2月号
中国最新情報 “富裕層はどこへ?” 2014年2月号
今年の春節期間中、中国人旅行客が海外で消費した贅沢品の消費合計額は
69億米ドル、前年比18%のマイナスと発表されました。
何故、あれだけ人気のあったブランド品が売れなくなってしまったのか。
中国の富裕層はどこへ消えたのか?
今回はこれらの問題を昨今のニュースから考察してみたいと思います。
1、春節消費の低下と反腐敗運動
世界贅沢品協会が発布した2014年の中国春節の海外ぜいたく品消費統計報告に
よると、7日間の消費の累計は69億米ドル、昨年の85億米ドルに比べ18.8%の
定価となり、中国国内の高級贈答品市場の影響が海外消費の縮小に繋がって
いると分析される。しかし、中国人が依然最大の消費層であることに代わりは
なく、全世界の45.1%を占める。主要都市の贅沢品消費も縮小しており、
北京・上海・広州・シンセン・重慶の5都市の同期累計消費は3.5億米ドル、
昨年の8.3億米ドルに比べ57.8%、一昨年の17.5億米ドルと比べ80%の低下、
春節の贅沢品消費は過去10年以来の最低点を迎えた。
http://www.linkshop.com.cn/web/archives/2014/280176.shtml
(2014年2月12日 聯商網)
こうして比較すると、海外より国内の贅沢品消費の低下が目立ちます。
これは日本でもすでに報道がなされているように、2013年から中国政府が掲げた
「反腐敗運動=倹約令」による取締りが最大の原因です。
値が張る割にかさばらず、文字通り“袖の下”として渡すのに好都合であった
皮小物や腕時計の消費も目に見えて落ち込んでいますが、売り上げが落ちたのは
これら装飾品類だけではありません。
中国には会所(フイスオ)=クラブと呼ばれる施設がたくさん存在します。
概ね利用は会員制で、入会には巨額のデポジットと会員の推薦を必要とします。
何やら怪しげな印象もありますが、実態は大半がレストランです。
一般のレストランと違うのはほとんどが個室で、一卓数十万元という法外な料理や、
一瓶何万元もする高級ワインなどが毎日大量に消費される点です。
要人の接待や非公式の会食などに広く利用されていましたが、昨年からこれら
会所が倹約令の対象となり、多くの施設が閉鎖され、飲食業も大きな打撃を
受けています。2014年2月16日の東方新聞のTVのニュースでは、杭州の高級
会所がリース契約の半ばで強制的に閉鎖され、廉価なレストランに改造される
様子が紹介されていました。
(写真:上述日時のニュース画面。公務員はプライベートクラブへ出入り
してはならない、会員証を受け取る・所有してはならない、との
規定が映し出されています)
公務員の消費傾向の異常が正されることについては中国の世論も歓迎ムード
ですが、現在の問題はこれら法外な消費とは無縁で健全な金銭感覚を有していた
一般人の消費のトレンドが大きく変わりつつある点です。
なぜ、中国では自己使用目的のブランド物も売れなくなってしまったのでしょうか?
2、国内・海外でブランド物を買わない理由
上海地区の私の知人(中国人、20~30代男女)にブランド物を買わなくなった
理由のアンケートをとってみたところ、概ね下記の2点に回答が集中しました。
1位 みんな持っていて希少価値がない
ブランド物がステータスたり得るのは、一部の人しか買えないからです。
全員が同じものを持てるのであれば、制服やスーパーの袋と変わりません。
新聞でも希少価値の低下は「戦略ミス」と指摘されています。
グッチは58店、ルイ・ヴィトンは47店と中国内の販売網は膨らんだ。
その結果、ブランドの価値は低下。(中略)本国フランスでも「ルイ・ヴィトンは
中国で大衆化しすぎた」(仏紙)との指摘が出ている。
(2014年1月17日 日経新聞)
2位 買い物メインのツアー旅行に飽きた
国家旅行局の統計によると、2014年春節休暇期間の海外団体旅行の割合は
472.5万人/回、昨年同期比で18.1%の伸びとなる。
http://www.china.com.cn/travel/txt/2014-02/07/content_31388108.htm
(2014年2月7日 中国トラベルネット)
中国人観光客の海外での贅沢品の消費は落ちているものの、観光客の数自体は
前年比で大幅に伸びている点にご注目ください。
統計は団体旅行の人数だけなので、個人を含めると伸び率は更に大きいでしょう。
つまり、買い物をしない旅行をする人が増えているということです。
海外旅行のリピーターが人が観光地をはずしてより珍しい場所に行きたがったり、
買い物の予算を削り、その分移動や宿泊のランクを上げるのは中国でも同じです。
また、SNS等で「ブランド物を買った」と写真をアップすると顰蹙を買いますが、
「こんなところに行ってきた」という写真であればそれほど嫌味でもなく、
場所が辺鄙であるほど反響も大きいというネット世代特有の事情もあるようです。
ブランドの希少価値が低下した理由と、今後の旅行のトレンドがより細分化
されることを考えると、海外の贅沢品消費金額は来年以降も更なる低下が
予想されます。しかし、それ以上に中国の富裕層市場にとって打撃となっている
大きな問題があります。
海外への移民です。
3、中国から富裕層が消える?
グラフ:「3,000万ドル(30億円)以上の純資産を持つ人の数」
(2014年1月27日 日経新聞)
※表は記事を元に一部を抜粋編集し、再作成したものです。
新聞記事の趣旨は「新興国の富裕層の比率が劇的に伸びる」という予測ですが、
この表の隠れたトリックは、「何割が移民なのか」が書かれていない点です。
ニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルス等の超富裕層、あるいは富裕層の中に、
本来中国の富裕層であった、中国から移民した華僑が多数カウントされている
可能性は非常に高いです。これを裏付けるデータが今年のニュースでも
発表されています。
移民局の最新データによると、昨年の米国投資移民EB-5の申請件数は
過去最高、うちグリーンカードを取得した中国籍申請者は6,895人と、
その他国家を大きく引き離している。
http://www.sinovision.net/society/201401/00281241.htm
(2014年1月21日 SINOVISION NET)
対象者はもともと「投資移民」として資産と引き換えにその国の国籍を得る
人々のため、移り住んだ後の生活水準は現地の標準より上、「富裕層」に
そのままスライドします。中国の移民ブームは年々加速しており、特にアメリカや
オーストラリアなどは下火になったもののまだまだ人気があります。
移民を決断する理由は多々ありますが、「不動産バブルへの懸念」「過熱する
一方の受験戦争を避ける、その国の国籍の子供は進学が無料になる等子女の
教育のため」「中国の物価の桁外れな高騰」「倹約令や人の目を気にせず、
思う存分消費ができる」「富裕層市場が成熟しており、選択肢が豊富」などが
よく挙げられる回答です。中でも物価の高騰は無視できないファクターであり、
言葉の問題さえクリアできれば、海外で過ごしたほうがより費用対効果が高いと
判断する富裕層は後を絶ちません。
今後も中国からの富と人材の流出を抑えることは難しいと思われます。
ところが、受け入れ側各国でも増え続ける移民の割合や、国籍だけ取得し国内に
滞在せず当地の経済に貢献しない等の問題は早急に解決すべき問題であり、
ついにある国が決断に踏み切ったという最新情報が今月発表されました。
2月11日、カナダ連邦政府は新たに公布した年度経済計画の中で、投資移民が
国にもたらした経済効果、税収がその他類別の移民に比べ遥かに低いことから、
28年間実施してきた投資移民の項目を終結させた。すでに提出された6.6万件の
移民申請は一律不許可、そのうち中国からの申請が57,308件を占める。
http://finance.people.com.cn/money/n/2014/0225/c218900-24453787.html
(2014年2月25日 人民網)
カナダは移民条件を満たすのが比較的容易なことから毎年大量の中国からの
移民を受け入れていたため、中国国内では移民を予定していた申請者の間で
混乱が発生しています。他国もこれに追随する可能性は非常に高く、条件の
引き上げや人数制限など、規制の改訂が予想されます。
中国富裕層の移民先のトレンドがその国の市場を牽引するとあり、中国内外でも
次の候補国・候補地の予測に余念がありません。
“中国人富裕層の欧州における消費傾向”などの限定された分析ではなく、
今後は“中国系富裕層の全世界における消費傾向”という俯瞰的な分析が必要に
なるでしょう。2022年、果たしてどのような結果になるか、
私も今からとても楽しみです。
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