バックナンバー 中国最新情報番外 “東京の中国人観光客対応”検証!” 2014年12月・2015年1月合併号

中国最新情報番外 “東京の中国人観光客対応検証!” 

2014年12月・2015年1月合併号

 

12月半ばに出張が入り、2年ぶりに故郷の東京へ戻ってまいりました。

私は名字からしてよくある日本名であり、外見にも何の特長もないのですが、

全体的に挙動不審らしく、他国で現地の人にやたらと道を聞かれるかわりに、

日本でよく外国人扱いをされます。中国のクレジットカードを出そうものなら

それまで普通に会話を続けていたにも関わらず突然カタコトに切り替えられる

こともしばしばです。面白いのでそのままお店の反応を見るのが半ば趣味と

化していますが、一度

「日本語お上手ですね!」『ええ、日本人ですから』

「全然違和感ないですねぇ」『母国語ですし』

「学校もこちらで?」『当然です』

「小さい頃からやってると違うんですねぇ」

と東京で延々とかみ合わない会話をされた際は祖国で感じた疎外感に

泣きそうになりました。

昨今は対人民元の大幅な円安が続いており、かつ過去数年で上海と

東京の物価が(交通費などを除き)完全に逆転したため、

「安くておいしい外食のため」「上海よりレートがお得な輸入物を買うため」

日本が旅行の行き先として再度注目を浴びており、私の周囲でも今まで

あまり日本に興味のなかった上海の友人たちが円安に魅かれ、次々日本へ

出かけていたためさぞかし観光業もにぎわっているだろうと今回期待して

いたのですが、思いのほか人出がなく、映画から人気に火のついた北海道や

日本旅行リピーターが好む温泉などに客足が流れていることを計算に入れても

やはりいまひとつ盛り上がりに欠けていました。原因を一言で表すのであれば

「不便」、ソフト面のインフラ不足に他ならないでしょう。

今回は日本がより多くの観光客を誘致するにあたり、私が切に改善を願う点を

2点ご紹介したいと思います。

 

  • 意外と不便な新免税政策

 

満を持しすぎてそんな計画があることすら忘れかけていた日本の新たな免税

政策が2014年12月ようやく施行されました。以前から一部デパートや免税店

では消費税の免除が実施されてはいましたが、今回は消耗品が対象になった

こともあり、免税を掲げる店舗が街中でも劇的に増えていました。

遅い!今更!やっとか!

と言いたい事は山ほどあるのですが、空港でのキャッシュバックではなく

その場での免税などなかなか便利な点もあり、

まずは施行をお祝いしたいと思います。

が、実際の施行情況については今後も継続的改善が必須です。

 

【免税の範囲】

一般物品

・1人の非居住者に対して同じ店舗における1日の販売合計額が1万円を

 超えること。

・販売合計額が100万円を超える場合には、旅券等の写しを経営する事業者の

 納税地又は販売場の所在地に保存すること。

消耗品

・1人の非居住者に対して同じ店舗における1日の販売合計額が5千円を超え

 50万円までの範囲内であること。

・非居住者は、消耗品を購入した日から30 日以内に輸出する旨を誓約すること。

消費されないように指定された方法による包装がされていること。

http://www.mlit.go.jp/kankocho/tax-free/about.html

(国土交通省観光庁)

 

赤字の部分がポイントという名のツッコミどころですのでご注意ください。

消耗品の中で中国からの観光客が大量に購入するものの筆頭各は化粧品です。

ドラッグストアやデパートのコスメカウンターで大量買いする人々を

皆さんも見かけたことがあるのではないでしょうか。今回も新宿某デパートの

カウンターで美容部員さんから

『一部のブランドは売り上げの半分近くを中国のお客さんに頼っている』

と話を聞き、ぜひ引き続きたくさん購入してほしいとお店でも知恵を絞って

いるとのことでした。これらの化粧品は「代购」と呼ばれる代理購入目的が

主であり、購入層には友人知人からの頼まれ物を買いに来た旅行客のほか、

ネットでの販売で稼いでいるプロのバイヤーやアルバイトでお小遣い稼ぎを

している留学生などが含まれています。「ここからここまで、全部!」と

いうような買い方を中国語では「掃貨」と呼び、文字通り掃いたかのように

棚を空にする様子は日本語の「大人買い」などとはスケールが違います。

ここでひっかかるのは一日一店舗50万円という上限。金額だけ見ると結構な

値段ですが高級化粧品を本気でいくつも買うとなると50万円程度は

あっという間になくなります。免税品の横流しや価格破壊の防止など、

様々な角度から考慮しての上限設定であるとは思うのですが、日本から

大量に持ち出される化粧品のほとんどは中国では未発売の商品、

また中国国内で転売される価格が日本国内の定価を下回ることはまずないので、

市場への影響は考えがたく、上限を設けることの意義はあまり

ないように思われます。そして最後の「指定された包装」、これはすでに

中国国内で大ブーイングが発生しています。免税で化粧品を購入すると

その場で「開封不可」と書かれたビニール袋にパッキングされ、日本を出る

まで開封してはならず、かつ空港の免税カウンターで現物を見せるために

手荷物で持ち込めという指示がなされます。国内で免税価格の正規品が

流れては困るので開封不可は分からなくもありませんが、手荷物で持ち込め

というのは不便です。飛行機の手荷物制限がある以上、買える量も制限される

ことになり、これでは間接的に自ら消耗品の販売額を制限していることに

なります。解決策としては空港のチェックインカウンターの手前に免税品

確認カウンターを設け、現物はその場で確認、確認後の荷物は預け入れも

可とするのが一番合理的かと思います。

 

  • 日本語しかないメニュー

 

最近の中国からの観光客はほぼ皆さん無線ルーターを持っており、

リアルタイムで携帯の翻訳アプリを使っているので買い物やチェックイン、

交通などの初歩的なところで困ることはほぼなくなりました。大幅な向上の

余地が残されているのは飲食店です。

何故か。ほとんどのお店に日本語メニューしかないからです。

高級化したメニューのない本格日本料理、「おまかせコース」のみのお店

クラスになると逆に英語が通じる確立が上がるため困ることもないのですが、

日本的なものを体験したい若い旅行者が集まるお店、

即ち居酒屋やカフェなどがいまだに不便な状態にあります。

食事は買い物と並んで日本旅行のハイライトとなっており、中国からの観光客は

(中国より)安くておいしい本場の日本料理に大きな期待を抱いています。

言い換えれば食事でトラブルが続くと日本旅行全体の印象が「不便・面倒」と

マイナスになる可能性も高く、読めないメニューを渡され、何を食べようか

迷う時間を体験できないとなると旅行の楽しさも半減です。

解決策は英語併記と全メニューの写真の掲載です。

『中国の方なら漢字が読めるから大丈夫でしょ』

という甘えは許されません。食品の中でカタカナ外来語が占める割合は一般の

予想をはるかに超えています。周りの人が食べているものを指差して

「あれと同じものを!」と注文するのは言葉が通じない国での海外旅行の

醍醐味でもありますが、現物確認できる種類が少ないのがこの方法。

写真が載っていればそんなリスクも省けます。メニューの作り直し程度なら

大した出費にならず、今作っておけばそのまま東京オリンピックまで

使いまわしができますので是非ご対応いただきたいです。

また、より視覚を直撃するメニューとして日本ならではの「食べ物の模型」は

中国人のみならず外国人に大人気です。

こちらは日本旅行が流行し始めた頃の記録ですが、驚きの様子が伝わってきます。

 

問:日本のレストランって(食べ物の)模型があるの?

答1:あるよ。これ、私が撮った写真(写真を掲載)。

答2:(略)遠くから見るとほんとにそっくり。

答3:(略)米も一粒一粒、マーボー豆腐のひき肉や刻んだネギまで見える。

   ディテールは本当に本格的。

http://zhidao.baidu.com/link?url=P-vkkOYuMOjoGKDH3Ue7etTUxQco9uD-Y3xTc3uycM2TPbAQvdIafwPxNKS1QCL-iHgb007KENArFy8ETBNxS_

(2009年3月2日 百度知道)

 

「お土産に買って帰りたい」「空港でお寿司のキーホルダーを買い占めた」

「レストランの模型の写真ばっかり撮って来た」などずいぶん前から話題に

なっていますので、観光客誘致のツールとして活用するのもおすすめです。

 

今回はひとまず今すぐ改革に手をつけられそうな点を2点、あげてみました。

何故敢えて難易度の低いものしか挙げていないかというと、ここで改革に

手間取っていると観光客はどんどん他国へ流れてしまうからです。

現時点でも多少の進捗はあったもののビザの規制緩和が遅れを取っている

うちに日本旅行のピークは一度過ぎてしまっています。

安易なビザの緩和は確かにリスクを伴いますが、日本への留学経験がある人、

昔住んでいた人、すでに一度旅行で訪れている人すらも現在は申請が

非常に面倒であり、中国とノービザ(あるいは入国時現地で取得)で行き来

できる東南アジアに客足を取られています。オリンピックを目指し更なる

誘致を目指すのであれば早急な対策が必要です。

また、観光客はみなさん日本のサービスに多大な期待を寄せています。

日本にあまりいい印象を抱いていなかったものの、一度訪問してその

サービスに感激し親日家になった人も中国には多く、どれだけいい思い出を

作ってもらえるかが真の国際交流のカギでもあります。

今回の帰国では次々に押し寄せる客波にうんざりしているのか、

投げやりな態度で接客をしているお店や空港職員の方をずいぶんと見かけ、

大変残念に思いました。“百聞は一見に如かず”の“一見”がすばらしい思い出と

なり、観光客がリピーターとしてまた足を運んでくれるよう、いつも以上に

サービスを気を配る事こそささやかながら効果絶大な日本のアピールに

なるのではないでしょうか。

 

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