バックナンバー 社員の日記 2014年7月号

◇◇◇連載 ()新入社員の日記 2014年7月号(前編)◇◇◇ 

 

暑中お見舞い申し上げます。夏太りの脅威におびえるSでございます。

ボスからは再三「もういい加減“新入社員”はやめなさい」と言われておりますが

なかなか他にいい案が浮かばないのでひとまず(旧)でお茶を濁しております。

光陰矢の如しなどと申しますが、実際は矢どころかリニアモーターカー並みの

スピードが出ているのではと疑うほどあっという間に時間が過ぎていき、

本ニュースレターも今月号ではや一周年を迎えることが出来ました。

これもひとえに皆様の厚い御支持のおかげです。本当にありがとうございます。

今回、ちょうど節目を迎えるにあたり、ニュースレターの構成を一新いたしました。

時事ニュースを読みやすい長さに調整し、新連載を数本設けております。

何故か。理由は断じて、ネタ切れ(だけ)では(たぶん)ございません。

時事ネタはリニアモーターカーどころかマッハの速さで劣化する事を

痛感したからです。二ヶ月前、5月の特集で快進撃を続ける「テスラ」社の

電気自動車をご紹介し中国国内の充電設備の設置が追いついていない現状から、

『全国的な普及には今しばらくかかるでしょう』などとしたり顔で書いて

おりましたがそれから数週間も経たないうちに、テスラを随分見かけるように

なりました。ショッピングモールの駐車場で1台、繁華街の路上で1台、

ホテルの駐車場でも1台。それどころか自宅マンションの駐車場にもすでに

3台ほどとまっており、つくづく世の中は不公平にできていると思いました。

 

 

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(写真:灯台下暗し、自宅の駐車場に止まっていたテスラ。ピッカピカです)

 

本当はもっとよく観察したかったのですが、うっかり傷をつけでもしたら

面倒なのでそそくさとその場を離れました。触らぬ高級車に祟りなし。

教官の教えは絶対です。

前置きはこの辺で切り上げ、新・ニュースレターの本文に参ります!

 

7月某日  在りし日の思い出RETURNS “実践・中国での自動車運転”

 

もはや個人の恥を晒すだけのコーナーとなり果てたこの日記ですが、

次の一年もまた懲りずに私生活の恥を晒し続ける所存でございます。

13回目の今回は過去一年で最もご好評を頂いた「中国の自動車教習所」に

ちなんで、当時習った運転の実践テクニックについてご紹介させていただきます。

2009年当時、上海の自動車教習所は初回の授業から卒研まで同じ教官が

担当するシステムになっておりました。つまり、私の知識は100%彼からの

受け売りなのですが、自分で運転する機会が増えるにつれ彼の基準が日本含む

他国のスタンダードどころかどうやら中国国内の一般常識に照らしても相当に

異質であったことが周囲の反応から徐々に判明してきました。

教官の全ての指示に共通するキーワードは『省油=ガソリン節約』、

この一言です。教習卒業まで定額制でありガソリン費は教官の負担となるため、

生徒にガソリンを無駄遣いされると懐が痛むというのが理由その1、

元タクシー運転手のためガソリン節約技が染み付いているのが理由その2、

毎月の出費にズレが生じると怖い怖い上海人の奥さんに叱られるのが理由その3、

中でもその3は最重要です。

ガソリンの節約は環境保護の観点からも推奨されてしかるべき行動ですが、

あくまでもそれは安全と命の保証がある範囲で、と私は声を大にして

強調したいと思います。具体例を挙げていきましょう。

例えば、青の信号が点滅し間もなく赤に変わる際は次の青信号を待つのが賢明です。

ところが実際に止まるともれなく教官の文句が付いてきます。

『干吗那么早就停下来啊? 冲啊! 』(何故こんな手前で止まるんだ、突っ切れ!)

ブレーキを踏むと再度走り出す時にガソリンを食うからです。

この応用編が “下り坂でブレーキを踏まない”という離れワザです。

『别踩刹车! 让车子滑下去! 』(ブレーキは踏むな!車を滑らせるんだ!)

“省油”に続くキーワード“滑下()去”がここで登場。慣性を利用して車を滑らせる

ことでガソリンを節約するので、速度を落とすような行動を採ると怒られます。

上海市内はとても混んでいるので追突事故も多発していますが、どの車も

ギリギリまでブレーキを踏まず異様に車間距離を詰めるのは割り込み防止

だけが目的ではなく、車を“滑下(过)去”して“省油”するためです。

教官曰く、前方の車との距離を詰め、のろのろ滑っている間に赤信号が青に変わり、

ブレーキを踏まずに済むのが理想的な状態で、そのタイミングの読みこそが

ベテランの腕の見せ所だそうです。反論するとうるさいので黙っておきました。

独自の美学に基づく小ワザも数多く、曰く「ハンドルを両手で握るのはダメ」

らしいです。理由は「カッコ悪いから」。

「太極拳の如く片手でくるくる回すのがクール」とのご意見。

どうしても両手で回さなければならない時は

「マージャンパイを混ぜるが如く、両手を交差させるのがクール」。

一体何をどこからツッコんでいいか分かりません。

しかし疑問に思いながらも言われたとおりに操作し、上手くできると

「你看,刚才的手势多漂亮啊!」(ほら、今の手つき、すごくきれいじゃないか!)

と大げさにホメるという高度な心理戦を仕掛けてきます。単純な私は調子に乗って

くるくる回していたため、いまだに癖が抜けません。

何事もないよう願うばかりです。

明らかに初心者には不要かつ危険な実践的知識はこれだけではありません。

一体、他にはどのようなものがあるのでしょうか。

詳細は後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇連載 ()新入社員の日記 2014年7月号(後編)◇◇◇ 

 

私が教官から当時習った運転技術は全てこれ以上ないほど具体的で実践的な

テクニックばかりです。日本語で言う“習うより慣れろ”が彼のモットーで

「这个开关是做什么的?」(このスイッチは何ですか?)

『你全部都按一边就知道了!』(全部一回押してみればわかる!)

「・・・那么,哪个是空调的开关啊?」(じゃあ、空調のスイッチは?)

『空调很耗油的!』(空調はものすごくガソリンを食う!)

「我知道是很耗油的!是哪个!?」(知ってますよ!で、どれなんです!?)

大体このように進みます。ワイパーも夜間のライトも当時は知りませんでした。

しかも基準がタクシーのドライバー基準なので、ラジオの番組スケジュールなど

その業界の人ではない限り運転には全く役に立たない知識も多々ありました。

一体他にはどんなものがあったのでしょうか。

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郊外の教習所付近でひたすら路上教習を実施すること数回、点滅した信号を

見るやアクセルを踏み込むという動作を繰り返していると、初心者のモタモタ

した運転では赤信号を突っ切ってしまう事態が時折発生します。

信号無視は減点の上罰金です。交通規則の試験では確かにそう回答したはず

なのですが、教官曰く

『你连驾照都还没拿到罚什么款啊?』(免許も取れてないのに罰金なんかあるか)

『拿到驾照后注意就可以了』(免許を取ってから注意すればいいじゃないか)

その時はなるほどと納得したのですが、中国人の友人が口をそろえて

「おかしいでしょ・・・・」と絶句するのを見て目が覚めました。絶対ダメです。

当時はスピードカメラがありませんでしたが、最近は大量に設置されているので

必ず見つかりますし、そもそも常識的にも法律的にも完全にアウトです。

また、初心者にとって緊張以外のもう一つのプレッシャーが周囲の車です。

操作にまごついて後続の車からクラクションを鳴らされると焦りを感じます。

下手に焦ると事故に繋がるので平常心を保つべきなのですが、

明らかに自分が悪い場合はやはり気持ちがはやります。そんな時どうするか。

『你也轻喇叭呀!』(そういう時は君もクラクションを鳴らせ!)

クラクションを鳴らされたら自分もすかさず鳴らせとの指示。

『这样人家以为你前面有问题』(そしたら君の前の車のせいだと思うから)

では、自分が先頭だった場合はどうするのか。

『还是轻呀,从后面看不到你的前面!』(鳴らせ、後ろからは前まで見えない!)

根本的にどこか間違っているような気がしますが、これも癖になっており

治りません。ただ、彼を庇うわけではありませんが上海ではクラクション

多用は必須です。

日本では考えられないサイズの障害が次から次へと出現するからです。

 

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 (写真:車窓から捕らえた障害の例。三輪車に積載量制限の概念はありません。)

 

何でもひとまずやってみる私の態度に教官は結構満足していたようで、

実際は一々反論するのが面倒だっただけなど露とも思わない彼はこの他にも

「サイドミラーが壊れたら助手席に人を座らせる~誰か見てれば没問題~編」や、

「数分の路駐はサイドブレーキなし~邪魔なら押して移動しといて~編」など、

ほぼ反則の知識もたくさん伝授してくれました。が、その後周囲の中国人から

軒並み『その教官おかしいよ!』『絶対ダメ!』と釘を刺されたので、

普段は必要以上に慎重にそろりそろりと運転をしています。その甲斐あって

今まで交通違反は皆無です。しかし刷り込みとは恐ろしいもので今でも気が付くと

下り坂で車を滑らせていたり、必要以上にクラクション(機嫌がいいとリズム付)

を鳴らしていたり、彼の動作を無意識に真似ている自分がいます。

「いのちだいじに」と心に刻み、周囲そして自分も事故に巻き込まれないよう、

くれぐれも安全運転を心がけようと思います。

ところで、前述の実践的教法がたたり、今だにどの車に乗ってもラジオと

ウインカーを除くクーラーやその他もろもろの機能の使い方がいまひとつ

よくわかりません。

車に詳しい方からのやさしいご意見を随時お待ちしております。

 

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