バックナンバー 社員の日記 2014年5月号

◇◇◇新入社員(仮)の日記 2014年5月号(前編)◇◇◇ 

 

「新入社員」という表現を改めろと再三ボスから言われているにも関わらず

踏ん切りがつかず(仮)の追記でお茶を濁しておりますSです。

気分だけはいつまでも新人なのですが、業務の配分的にそうも言ってもいられず、

なおかつ新人を名乗るにはそこそこ年を食っているという難しい年代です。

発行一周年記念まではなんとかこのままシラを切り通そうと目論んでおります。

今月も皆様どうぞ宜しくお願いいたします。

 

5月  在りし日の思い出 中国の自動車教習所

 

今月は趣向を変えて、私の過去のプライベートな体験をご紹介したいと思います。

ネタ切れでは断じてございません。今月の特集にちなんだ自動車関連の思い出です。

最近、中国で車を運転される日本人の方を時々お見かけするようになりましたが、

中国の教習所に通いこちらで免許を取られた方はまだ少ないのではないでしょうか。

私は日本で運転した経験がなかったため、2009年の冬に上海で免許を取得しました。

当時はすでに中国に住んで5年ほど経っており、当地で味わうカルチャーショックは

一通り経験したと思っておりましたが、世界の多様さを心底思い知る結果となり

ました。教習は日本とほぼ同じで、まず身体検査の後、交通法規と呼ばれる

試験を実施、その後車庫入れの試験「倒庫」、仮免にあたる「小路考」、

卒検「大路考」が続きます。外国人である私は試験も言語面で遅れを取るので

いつになく真面目に勉強しましたが、合格後に試験会場で「日本語の試験もあった

のに」と試験官に言われ脱力しました。後出しジャンケンは日常茶飯事です。

ここでつまづいては生きていけません。

私についてくれた教官は、上海で長年タクシーを運転していたベテラン男性でした。

外国人だろうと外星人(=宇宙人)だろうと俺が教えるからには安心しろとの

お言葉。が、左ハンドルのマニュアル車に乗り込んだ時点で誤りに気づくべき

でした。日本で運転する可能性を完全に無視したチョイスはただの教官の趣味です。

「オートマなんて運転して楽しいか?楽しくないだろう!そうだろう!」

楽しい楽しくないではなく、私は免許が欲しいのですが、反論する元気が

ありません。適当な性格同士なんとなく馬が合いそうな気がしたので、

教習はそのまま続けることにし、毎週土曜と日曜に3-4時間ずつ練習に通い

ましたが、この期間に教官から聞いた“運転の心得”は今でもトラウマ・・・いえ、

金科玉条として深く心に刻まれています。

「开车就是凭手感和脚感,其他都是假的!」

(運転は、手の感覚と足の感覚、その他は全部ニセモノだ!)

という一言から、だいたいの様子はお察しいただけるかと思います。

「后視鏡(バックミラー)はいつ使うんです?車庫入れの時?」

「あぁ、それね。女の子は化粧直しとかに便利だね。まぁ、俺は使わないけど」

鏡を見ないと運転できないような人はセンスがなく、彼の美学に反するそうです。

美学より命が大事なのですが、それもきっと美学に反するので黙っていました。

「夜運転する時はどうするんですか?ライトをつけるだけ?」

「他に何があるんだ?」

何もないそうです。何かあるような気がするのですが、もう確認する術が

ありません。彼の教え方は一見破天荒ですが、よくよく聞いてみると理に適った

発言も時折あります。

「体で覚えずマニュアルで覚えるととっさの対応ができないから、

 とにかく乗りなさい」

「流れに乗ることが事故にあわない一番の秘訣。怖がってのろのろ運転していたり、

いつまでも曲がらなかったりするから衝突される確立が上がる。思い切りが大切」

など、混雑する都心部の事故を多数目撃した当事者ならではの意見は貴重です。

しかし、プロの意見はあまりに実践的であるが故に時として初心者を混乱させます。

「倒库的窍门是尽量避免停在贵的车子的旁边!就这样!」

(車庫入れのコツは、できるだけ高級そうな車の横を避けること!以上!)

最初からぶつける前提で進む教習。私はいかにして免許を取ったのでしょうか?

続きは後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇新入社員(仮)の日記 2014年5月号(後編)◇◇◇ 

 

初心者が車の運転で注意すべきこと。それは高級そうな車やタクシー、バスなど

とはできるだけ距離をとること、くれぐれも人だけは轢かないように注意すること、

保険は多目にかけておくこと、そしてどうしても不安ならハマーやジープなど

人がよけてくれそうな大きな車を買うこと。以上!

反論の余地はありません。師の教えは絶対です。但し、命のある限り。

いよいよ自動車教習も試験に突入です。一体どのようなものなのでしょうか。

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教習を始めて二週間程度でまず、車庫入れの試験を受けました。

試験自体はそう難しくはありません。試験場の車がボロボロで、助手席が座席ごと

なかったり、椅子の背もたれが壊れていたり、クラッチとアクセルが長年の摩擦で

ただの金属片と化しており足がすべったりしましたが、試験場での使用は廃車の

有効的な再利用と言えなくもないかもしれません。問題は小路考(仮免)試験です。

当時、この試験は3つのメニューで構成されており、侧方停车(縦列駐車)と

上坡停车(坂道での停車と発進)が必須科目、残りの一科目はくじ引きで

ランダムに決められる規定になっておりました。S字カーブや直角左折など、

種目は多々ありましたが中でも最難関は “连续障碍物”と呼ばれる障害物の中を

走行する試験です。地面にマンホール大の突起が連続して十数個並んでおり、

その形状から通称“大餅”と呼ばれ『これを引いたら諦めて再受験しろ』と散々

言われていましたが当日私は運悪くこれを引いてしまいました。

「大餅!よりによって大餅!あぁ、もう、今回は諦めろ、絶対落ちる!」

取り乱す教官。しかし彼は知りません。

私が “ここ一番”の運だけで数十年生き延びてきたことを。

人生における数少ない自慢ですが、私はその日の仮免試験に満点で合格しました。

「大餅」をクリアした瞬間、奇声を上げ車内で大騒ぎしていた様子が運転席の

監視カメラで待合室中に流されていたと知り恥をかいたのはその直後です。

散々ネガティブな発言をしていた教官は突如「彼女なら受かると俺は思ってた!」

と周囲に言いふらすばかりか、風の便りに数年後、他の受講生たちにも

「逆境で腹を括った外国人のケース・スタディ ~ 9割は俺の指導のおかげ編 ~」

と語り継いでいると聞きました。怒る気力はありません。

彼が元気そうで何よりです。

最後の大路考(卒検)は当時、試験官に“中華”銘柄のタバコを上納しないと

不合格という不文律があり、試験日は絶対にタバコを忘れないよう再三念を

押されていました。ところがぼんやりしていた私は2パックを2カートンと勘違いし、

大量のタバコを抱えて意気揚々と試験会場に乗り込み、あわてた教官に車内に

引きずりこまれました。

「多い分には問題ないんじゃないですか?」

「そんな大っぴらに手渡す奴がいるか!」

賄賂にもいろいろコツや細則があるようです。

ちなみに初日から散々無謀なドライブを強制的に経験させられていたので、

卒検は拍子抜けするほど簡単でした。

以上が免許取得までの流れです。一切の誇張はありません。すべて事実です。

無事免許を取得したものの、結局その後5年ほどずっとペーパードライバーで過ごし、

今年に入ってからまた時折運転をするようになりましたが、上海都市部や郊外の

道路事情の複雑さは教習の比ではありません。道路を逆走する原付や車道に

はみ出している果物屋台、私以上に個性的な教官に当たったのであろう

初心者の車など、障害物が盛りだくさんです。

このような道路事情が待ち受けている以上、風変わりな教官程度でくじけていては

どのみち運転は出来ないので、個人的にはいい先生であったと今でもなつかしく

思っております。とはいえ、他人を事故に巻き込むわけにはいかないので

ここ最近はレンタカーを借り、感覚を取り戻すため空き地となった万博会場などで

運転の練習をしているのですが例の教官のおかげでオートマの感覚がつかめず、

いつの間にかスピードが出ています。もし週末、人気のない旧万博会場を

猛スピードで爆走する車を見かけましたら、お手数ですがそっと距離を取って

くだされば幸いです。皆様の安全のためにも。

 

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