バックナンバー 社員の日記 2015年3月号

◇◇◇()新入社員の日記 2015年3月号(前編)◇◇◇ 

 

No music, No lifeとまでは行かなくとも音楽は日常生活に欠かせない

Sでございます。私は壊滅的に音楽の才能がなく、楽器という楽器に

縁がありません。まず楽譜が読めません。しかしダンスは大好きで、

約30年ほど前の東京の某地区では「盆踊りあらし」と呼ばれる

幼児の目撃情報が相次いだそうです。

車上あらしの一派ではありません。私のことです。

その後は中・高一貫校のダンス部に入り、厳しさとは無縁の自由な部活で

ひたすら音楽を聞いておりました。肝心の学業の結果はお察し下さい。

そんな背景から上海に移住後も街中やテレビから流れてくる音楽には大変

興味をそそられます。中国の音楽シーンは予想よりはるかに多種多様です。

我々日本人を含む外国人はいまだに伝統的な民族音楽を想像しがちですが、

実際はプッチーニの「トゥーランドット」やクライスラーの「中国の太鼓」を

想像していたら突然、舞台でフリースタイルのラップが始まったくらいの

違いがあります。余談ですが中国国内はもちろん、台湾やシンガポールを

含む中国語圏には中国語ラップを歌う著名な歌手が多数存在しており、

中国語とラップの相性の良さをつくづく実感します。

社会情勢や歴史ではなく日常生活を題材にした歌詞であっても韻を踏む、

対句を配置するといった漢詩の伝統が息づいているように思います。

漢詩も元々は曲が付いていたそうですので、もし杜甫が現代に生きていたら

世の不条理をぶった斬るさぞかし骨太な社会派ラップが生まれていたで

あろうと思うと少し残念です。

さて、何故今回唐突に音楽の話が始まったかと申しますと、2015年3月、

上海の音楽シーンに欠かせなかった「Charlie Lin(林)」氏がお亡くなりに

なったからです。上海は街の代名詞にもなっているとおりジャズが大変

盛んな街ですが、その全盛期は1920~30年代です。上海語で“老克拉”

(上海語発音:ロッ・カラ)と呼ばれるこの時代の紳士階級はぴかぴかに

磨いた革靴、テーラーメイドのスーツを着込み、最新の輸入車を乗り回して

毎晩、和平飯店や国際飯店といった高級ホテルや租界にある自宅の洋館で

華やかなパーティーを繰り広げていました。

アメリカの「The Great Gatsby」の世界を更にヨーロッパ風にした生活

スタイルを思い浮かべていただければほぼ間違いありません。

コカコーラを「可口可乐」と訳した“中国広告の父”の息子として非常に

裕福な幼少時代を過ごした林氏はアメリカン・スクールで幼少期を過ごし

その後留学、モーターボートや競馬、そして音楽をこよなく愛した“老克拉”の

代表人物であり、単なる「成金」とは一線を画す教養・お金・品の全てを

兼ね備えた本物の富裕層です。革命期は香港に逃れ難を避け、

その後ラジオの名物DJとして所蔵していた数万枚のレコードから

ジャスの黄金期の名曲を紹介していました。1990年代から新しく

スタートした「怀旧金曲」という番組は上海でも絶大な人気を誇って

おり、私もリスナーの一人でした。3月 8日に林氏が亡くなった後も当分

番組は続けられるそうで、車のラジオから当時の上海へタイムスリップ

したかのような素晴らしい曲が流れてきます。まだまだ運転マナーに

改善の余地が大いにある上海、心がすさみがちなドライブ中の爽やかな

清涼剤です。林氏のご冥福を心よりお祈りしつつ、

今月も最新のニュースをお届けします!

 

■某月某日  長引く風邪 不毛な争いと伝統療法

 

上海も3月の末からようやく暖かくなってまいりました。上海は人間の

風邪耐性を試すため特別にデザインされた箱庭なのではないかと思うほど

気候の変化が激しく、春と秋がほとんどありません。とにかく湿度が

高いので湿気で指先まで凍える真冬と、熱中症が続出する真夏の

どちらかが延々と続き、季節の変わり目は1日単位で気温が十数度以上

上下します。現在はまさにその気温のジェットコースター期間にあたり、

本来天気予報を見てから翌日何を着るか決めるべきなのですが、上海の

天気予報はアテにならず、湿度が高くなると広がる私の髪のほうが

天気予報よりよほど正確で「あっ、今日髪のカールが取れてるから雨だね!」

と地元の知人からはセンサー扱いされています。多少なりとも地域に

貢献できて光栄です。今年は特に異常気象で嫌な予感がしていましたが、

案の定まんまと風邪を引き、清明節(日本のお盆に相当)の3連休は

自宅から一歩も出ず、高熱を出して震えておりました。

さて、海外で風邪を引いた場合、本来は病院へ駆け込むのが一番の

得策ではあるのですが、過去の日記でもご紹介申し上げたとおり中国の

病院は面倒でどうしても足が遠のきます。

また、こちらでは金儲けを目的とした不必要な点滴の処方が社会問題に

なっており、何かにつけて「食塩水の点滴」「ブドウ糖の点滴」を強要され、

2-3時間を無駄にすることになります。よほど胃が弱っているので

なければ自宅でスポーツドリンクでも飲んだ方が安くて早くて簡単です。

というわけで残る選択肢はただ一つ、街中の薬局です。

中国の薬局は日本の“ドラッグストア”のイメージとは異なり、化粧品や

日用品は置いておらず、純粋に薬だけを販売しており、一部処方箋窓口を

兼ねていることもあります。自分で商品を手に取ってみることはできず、

大まかな症状を店員に訴え、候補の薬を出してもらい、異論がない場合は

購入にいたります。何故わざわざ「異論」と書いたかというと、好みの薬が

ある場合それをこちらから指定しないと、薬局にコミッションが入る

メーカーの薬を強制的に買わされる可能性が高いからです。

私が偏愛する某・総合感冒薬は過去「数箱分集めてある成分を抽出すると

麻薬を製造できる」との報道が出てから店頭で買うのが難しくなり、

入手するのが一苦労です。また、その感冒薬はあまり薬局にコミッションを

払う習慣がないようで、薬局で聞いても

「是感冒吗? 那吃泰诺好了. 效果蛮好的 (風邪?じゃあタイノールにしなさい。

 よく効くよ)」

「怎么不喜欢泰诺啊? 这不是很好嘛(どうして嫌いなの?いい薬じゃない)」

「一定要○○啊? (どうしても○○じゃなきゃダメ?)」

「…要几盒?(・・・いくつ要るの?)」

と押し問答をしてようやく店の奥からごそごそと取り出してもらうことも

しばしばです。ただでさえ風邪で弱っているところにたかが買い物一つに

時間がかかるとなると心身ともにダメージも大きいので、対策としては

近所の同じ薬局で続けて購入し、顔を覚えてもらうことが一番です。

何度か行くと次からは何も言わずとも自動的に箱がカウンターに出てきます。

いつもの店員がいないとまた1から押し問答のやり直しになりますが、

これは中国に限らず日本でも時間帯がズレて知らないアルバイトに

当たると行きつけのコンビニで箸を忘れられたりするのと同じです。

いかに“顔パス店”を増やすかが生活快適化のコツです。

さぁ、こうして薬は手に入りましたが、38度の熱が数日続いた今回の

風邪と戦うにあたり総合感冒薬だけでは心細く、もっと根本的な治療を

実施する必要があります。一体どんな治療なのでしょうか。

詳細は後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇()新入社員の日記 2015年3月号(後編)◇◇◇

 

風邪の時、薬よりも食料よりも一番ありがたいのは看病をしてくれる家族や

友人の存在です。飲み物や果物を買いに行ってくれたり、薬を飲む時間を

リマインドしてくれたり、そして何より体が弱って不安な時に傍についていて

くれることで心の平安を得ることができます。問題は、私の場合風邪を引く

ときはたいてい夫婦ともども同じタイミングで倒れることです。

今回も全く同じ症状で二人とも同時期に寝込んだため、

「看病をしてくれた側に感謝の念を抱く」

「“君/あなたがいてくれてよかった!”と改めて家族のありがたみを感じる」

などという心温まるホームドラマは上演されず、

「先に風邪を引いてきた方が悪い」

『いや、移される方の健康管理がなってない』

と水掛け論が勃発し、いかに自分の主張が正しいかのプレゼン合戦に発展。

互いに熱でぼんやりしており、普段は絶対にしないはずの外国人同士で

議論をする際のタブーである「我こそがコモン・センスの代弁者」という

視野の狭い主張を繰り返した挙句、その後羽根布団の取り合いを開始、

果てはどちらが食料の買出しに行くかで心理戦を展開し、最後は結局高熱で

二人ともダウンという不毛な争いを繰り返していたため、治るものも治らず

このニュースレターを書いている現在もいまだに不調をひきずっています。

人間最後に頼れるのは結局自分だけという大原則に立ちかえり、こういう時は

いろいろな情報を駆使して一刻も早く相手(夫)より先に回復するに限ります。

一体どうするのでしょうか。

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◇◇◇()新入社員の日記 2015年3月号(後編)◇◇◇

 

既に周知の事実ですが、ウイルスは種類があまりに多様なため現在の医学で

風邪を根本的に治療することはできないそうです。感冒薬は症状を緩和するため

だけのものなので、必要最低限の薬で熱や炎症を抑えつつ、一刻も早く菌や

毒素を対外に排出してしまうことこそが早期回復の鍵であり、水分の補給は

とても効果的です。おりしも時代はまさに“デトックス”ブーム。

中国語でデトックスはそのまま“排毒”と記されますが、こうしてまじまじと

漢字を見てみると不調の根本的原因は体内の不純物というより心に蓄積する

毒=ストレスであるという事実がよく見えてきます。ストレスは一刻も早く

発散すべきです。したがって皆様にも熱を出した際などは安静に過ごすより

特別な機会をフルに活用し、遠慮なくワガママを押し通し存分に鬱憤を

晴らされることをお勧めします。ただしこの方法は治った後にツケを払う

必要があること、相手が風邪を引いた際により強力なワガママの

“ブーメラン返し”をされること、ご家庭によっては風邪程度では逆転できない

ヒエラルキーがあることなど欠点もありますので、今後のご自身の立場や

情況を判断しくれぐれも慎重に実行ください。

また、私は今回、上に記載のとおりこき使いたい相手が共倒れしているので

おとなしくしているしかありません。しかし大量の水分でデトックスを促進

していても、どうしても排出できない毒素が溜まってしまう場合もあります。

そんな時こそ最後の手段、中国医学の力を借りるしかありません。

こちらでポピュラーな治療法に“拔火罐”というものがあります。

日本語では“カッピング”などと訳されるこの治療法では、プリンの容器大の

丸いガラス製の瓶の中を火をつけたアルコール綿などで炙って空気を追い出し、

中を真空状態にして身体に吸いつけていきます。背骨や肩、うなじのツボに

十数個吸い付け、横から見ると肉が球形に盛り上がるほど強く吸引されて

いるのですが、見た目に反して痛みはほとんどありません。これにより

体内の“寒気”を吸い出すそうです。痛々しい青紫色のまん丸の痣が背中に残り、

1週間程度は消えないので尻込みする外国人が多いのですが、長引く風邪、

特に止まらない咳には神秘的なまでの効果を発揮し、軽い風邪なら

すぐに治ります。施術後は毛穴が開き、身体が冷えやすいので1~2日入浴は

できませんが、痛みもなく手軽で病院に並ぶ必要もありません。指圧や

足ツボなどのマッサージのお店であればたいていどこでもメニューにあり、

費用も1,000円程度です。お手軽で効果も抜群なこの方法、カップが吸い付く

場所であれば背中に限らず体中どこでも施術可能です。私はかねてより

どうしても馬が合わない相手の両頬にカップを一個ずつ吸い付け、

丸い青痣ができたところで「あら、珍しい色のチークですこと」

と一週間笑ういやらせを考えておりましたが、今回再度カッピングを受け、

考えを改めました。咳は出ず、胃腸に来る風邪だったため施術者と相談し

お腹のツボに吸い付けたのですが、背中と違って思い切り誰かに

つねられているかのような痛みがあります。この違いは何なのか。

聞くと「肉が付いているところは痛いんですよ。背中は肉がないから痛みも

あまりないでしょう」。

じゃあ、お腹に脂肪のない人は痛くないのか。

「そうです。脂肪がなければ痛みもないですよ」。

なら、頬なんかさぞ痛いでしょうね。

「・・・そんなことする人はまずいませんが、痛いでしょうね」。

いやがらせが拷問になってはまずいので長年の計画は断念せざるを

えませんが、思わぬところで日頃の運動不足を指摘され、体調が悪い

ところに更にショックを受ける結果となりました。個人の贅肉事情は

さておき、やみくもに薬を飲むより副作用もずっと少ないので、

季節の変わり目の風邪で辛い思いをされている方は是非一度、

拔火罐をお試し下さい。

 

※日記の記事の内容はあくまでも筆者個人の体験であり、

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