バックナンバー 社員の日記 2014年9月号

◇◇◇()新入社員の日記 2014年9月(前編)◇◇◇ 

 

時代の流れについていけず困惑するSでございます。

まずは国慶節のため今月号の発行が遅れましたことお詫び申し上げます。

高度な情報化社会を迎えて久しいこの世界では、毎日大量の情報の中から

必要なものと不要なものを即座に分類して処理しなければなりませんが、

短期間に大きなニュースが連発すると時系列を上手く整理できず混乱します。

その混乱が私生活にも多大な影響を及ぼし、夕食の材料を買いに行き

秋物のブーツを買って帰って来るようなムダな出費につながります。

不可抗力、そう、不可抗力です。

9月は世界を騒がす大きなニュースが盛りだくさんでした。

中国はiPhone6の発売に沸きつつも「何だあの価格設定は」

「世界最大のマーケットの発売日が何故他国より遅い!?」

「ウォッチのデザインは一体どうしたんだろう」と

賛否両論分かれる意見が飛び交い、同時期にアリババのIPOがメディアを賑わし、

なおかつ横目ででスコットランド独立投票の行方を見守るという忙しさです。

アリババのIPOについては過去最高規模と世界中で騒がれましたが、中国では

誰もが株主が一体どういう層なのか薄々感づいていることもあり、あまり

驚きがありませんでした。また独立運動についてはニュースは出たものの、

報道規制により全てが控えめに。現在某地区が報道に出ているように、中国も

多数の地雷を抱える身であるからです。

そうなるとやはり9月のニュースはiPhone関係の独壇場と言ってよいでしょう。

いかなる時でも世界経済や国の政治より身近な話題に全力投球の私が選ぶ

2014年9月の“ザ・モスト・ショッキング・ニュース ・アワード”は

こちらでございます。 

http://www.iqiyi.com/v_19rrnbnlng.html

 

※中国の動画共有サイトへのリンクです  (動画は英語音声+中国語字幕)

※再生にはAdobe Flash Playerのインストールが必要です

音声が再生されますのでご注意下さい

 

こちらは近年売り上げが急増している飲食店『黄太吉(ホワンタイジー)』

のCMです。“煎餅”(ジェンビン)は中国では朝食やおやつとしてポピュラーな

メニューですが駅前の屋台などで買って歩きながら食べる人場合が大半であり、

今までついて回っていた『安いローカルな軽食』のイメージを完全に覆す広告は

インパクト大です。馴染みのない方にはマトモな食品紹介に見えるかもしれま

せんが、実際は日本でたとえるとたこ焼きやコロッケを異様にスタイリッシュな

プレゼンに落とし込み庶民の味を欧米人視点で“オリエンタルな高級スナック”

扱いしているような感覚です。

二つの卵が“デュアルエンジン”、鉄板が“生産システム”、“中国限定発売、

その他115カ国では発売ナシ!”など要所で断続的な笑いを誘います。

極めつけはよくぞここまでパロディにしたと思えるほどのアップルの

広告との類似、開始数十秒後から爆笑が止まらず大変でした。ここまで

やるのであれば衣装は黒のタートルネックか黒のTシャツを着て欲しかった

と思うのはやりすぎでしょうか。

「iPhone最強の敵、現る!!」のコピーに恥じない素晴らしい出来です。

ラップトップより高額なケータイを買う勇気も持ち歩く勇気もない

チキンな私は何度もフリーズする旧式のスマホを片手に今回も最新の

ニュースをご紹介します!

 

9月某日  月餅のゆくえ 近所総出の“ババ抜き”とは何か

 

中秋節は秋の訪れを感じられる中国で非常に重視されている伝統的な節句であり、

親戚が一堂に会し、食卓を囲んでごちそうを食べるのが慣わしですが、

その食卓に欠かせないのが中秋節のシンボル・月餅です。

私は中国に来るまで月餅といえば中華料理店のレジ横で一年中売っている

お菓子のイメージしかありませんでしたが、実際は柏餅のような季節物であり、

こちらでは中秋節を逃すと専門店に行かない限り手に入らず、日本の友人から

『シーズン外におみやげにリクエストされ困るものNo.1』でもあります。

また、一口に“月餅”と言っても中国の各地域ごとにその形状が大きく異なります。

日本人におなじみの月餅は広東省発祥のもので中国語で『広式(広東式)』

と呼ばれるタイプのものです。薄い皮にゴマ餡、こちらではアヒルの塩漬け卵

などが入ります。一方、上海地区でおなじみなのは『蘇式(蘇州式)』と

呼ばれるタイプで、こちらは丸い饅頭型をしています。

サクサクしたパイのような生地にシンプルな餡が入った素朴な味で、広式とは

見た目も味も大きく異なり、人により好みも分かれます。

中秋節の一ヶ月ほど前から企業の贈答、目上の方や年配の親族への贈呈用として

月餅が市場に出回り、各社が意匠を凝らしたデザインを競います。

中国では超・高級品扱いのハーゲンダッツ(アイスの価格が日本の約二倍)は

アイスクリーム月餅を、スターバックスはカプチーノ風味の月餅を、

と変種でローカル市場に参入する外資もあれば、五つ星ホテルも高級月餅を

宣伝し始めます。一方、地元の中華レストランはチャーシュー風味月餅など

新たな味に挑戦し、ネット上には“変種月餅一覧、今年は激辛牛肉餡が登場!”

などという見出しが踊ります。このようにバリエーションには事欠かない

月餅ですが、ここで率直な感想を告白しますとどれを食べても心から

おいしいと思ったことはありません。くどい!甘い!油っぽい!

の三重奏が味覚を直撃します。これは外国人に限った話ではなく、

中国甘党の先鋒を自認する上海人たちも『おばあちゃんが怒るから一個だけ』

『一口でいい』『見たくもない』と飽食世代はほぼ拒絶。

全体的にカロリーの高い食材の組み合わせである上に、比較的素朴な

蘇式月餅もパイ生地にはラードがたっぷり練りこんであり、昨今の

健康ブームと完全に逆行する流れです。変り種月餅は商品化の前に味見を

したのかどうか疑うようなものもあります。

一時期『フランスの有名パティシエが企画!』などと銘打った洋風の月餅が

流行しましたが、案の定どれも残念な仕上がりになるか、あるいは月餅の

概念からかけ離れたものになるかの二極となり『専門性』という言葉の重みを

噛みしめる結果となりました。そんなカロリー過多、激甘、

でも伝統イベントには欠かせない不思議なシンボル・月餅にはもう一つ、

面白い現象が付きまといます。一体何なのでしょうか。

答えは後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇連載 ()新入社員の日記 2014年9月(後編)◇◇◇ 

 

突然ですが、皆様トランプのババ抜きをご存知でしょうか。参加者が

互いにカードを引いて同じカードのペアを捨てて行き、最後に一枚の

ジョーカー(ババ)が手元に残った参加者が負けとなるあのゲームです。

単純なルールながら露骨に性格が反映されるこのゲーム、私は最後の二人、

手札が2対1になると不吉な発言や大げさな表情の変化で高確率で相手に

ババを引かせるため『もう絶対一緒にやりたくない』と学生時代

クラスメイトから疎まれたものですが、トランプが非常にポピュラーな

中国では何故かこのゲームをあまり見かけません。

が、ご本人たちのあずかり知らぬところで結果的にババ抜きをプレー

している情況が時折発生します。一体どんな情況なのでしょうか。 

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月餅が伝統行事に欠かせないものでありながら、その特徴ゆえに好んで

食べる人が少ない現状は前半にご紹介の通りです。しかし日本のお歳暮や

お中元のように付き合いで贈呈されるものですので、本来そんなに必要ない

にもかかわらず企業の代表や公務員、教師や購買担当などの所謂

「(色々)もらうポジションの人」の手元には1シーズン内に月餅の引換券が

何十枚も集まることになります。この時期は月餅券専門の“黄牛=ダフ屋”が

多数出没するので換金も可能ですが、月餅が現物の菓子折りとして贈られた

場合はどうしようもありません。家に何箱も積み上げておいても、親類の

集まりではせいぜい一人一個食べるのが限界です。

そんな時は必殺技、『何食わぬ顔で人にあげてしまう』の出番です。

ポイントは「余り物」「もらいもの」というワードを使わず、あなたのために

買って来ました、という姿勢を徹底して貫くこと、でないとさすがに失礼です。

とはいえ中秋節に日付けが近いと残り物なのが見え見えなので、時期は1週間前

までがベストでしょう。上海の古い集合住宅ではいまだに近所づきあいが活発で

あり、中高年の方々を中心にコミュニティ内でのおすそ分けやお土産、

プレゼントの贈呈が日常的に行われています。ここで、余った月餅が順番に

隣近所を回る現象が発生します。Aさんが余った月餅をBさん宅へ、

BさんからまたCさん宅へと回っていく様子はまさにトランプのババ抜きを

彷彿とさせます。私のとある年配の知人は数年前、

『隣にあげた月餅が回りまわって昨日戻ってきた』

とウソのような実話を披露してくれました。これはさすがに確率的にも

レアケースであり、一概に全ての集合住宅が同じとは言えませんが、

扱いに困るプレゼントを他人にあげてしまう例はよく聞きます。

そのあたりの消費者のニーズを店側もきちんと押さえており、

中国のプレゼントにはいわゆる“包装紙”があまりありません。

贈答用の箱+紙袋が主流です。これは送りなおしに非常に好都合でして、

一度中身を確かめても相手にバレません。月餅も同様で箱に包装紙はなく、

中の月餅も一個ずつ真空パックになっています。

「折角の贈り物をあげてしまうなんてモラルがないのか!」

という意見はこちらでも確かに聞かれるのですが、これは月餅を食べたことの

ない方特有のご意見であり、是非一度、本場の月餅を試されることを

お勧めします。国籍を問わず一回の食事で果敢に二個目にチャレンジする

勇者には私も滅多にお目にかかる機会がありません。

ちなみに蘇式はともかく広式の大型月餅は成人男性の手の平より大きく

厚みがあり、中にはアヒルの塩漬け卵が2-3個入っている可能性を

追記しておきます。

しかしこんな上海の月餅事情も今年からその様相が一変しました。

今月の特集でご紹介のように引換券の贈答が粛清の対象となった今年から

月餅も自分で買わなければ手に入らなくなり、スーパーではバラ売りの月餅が

初めて好調な売り上げを記録、一個だけ買って家族で分け合う家が

増えたからです。健康や出費の観点からはこちらが本来の望ましい在り方

であるのは明らかですが、なくなったらなくなったで市場飽和量を超えた

月餅の山が恋しくなるのもまた事実。

「去年まではあんなにあったのに・・・」と昔を懐かしむ声も結構聞こえて

おります。反腐の影響で消える中国の風物詩がここにも、と若干の感傷は

あるものの、私は今年も月餅を食べる気になれず、いただいた月餅は

上述の手法で知人に押し付けました。

たとえ引換券が消えようとも伝統は消えません。担い手を変えて継承されます。

「プレゼント転送」文化継承者初の外国人認定を目指し

私は今後も精進したいと思います。

 

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