バックナンバー “上海 勝手にレストラン・バー・他アワード!” 2015年3月号

“上海 勝手にレストラン・バー他アワード! 2015年3月号

 

このコーナーは、独断と偏見に基づき、お店の許可も一切取らず

社員が文字通り「勝手に」ステキなお店をご紹介する場です。

八回目、カタカナによる外来語の威力にいつも驚いているSがお届けします。

日本語の中でカタカナ表記される外来語は目立つので、同じものでも

「カタカナで記載すると舶来モノの香りが漂いカッコよくなる」という効果が

あります。特にヨーロッパ系言語の威力は絶大で、『本日のアミューズ・

ブッシュです』などと聞くとたとえそれがサーモンの切れ端であっても

前菜の前のワクワク感が加速されます。私の週末の昼食も“フゥン・トゥン・

ミェン”とカタカナで記すと途端に高級オリエンタル・キュイジーヌの相を

呈してくるから不思議です。実物は何のことはない“ワンタン麺”です。

やはり中華は漢字表記が一番だと思います。

さて、上海には各国租界時代のレシピに基づくパンや洋菓子の老舗が多々

ありますが、外国語の表記には色々と落とし穴もあり、洋菓子を漢字表記

した結果、元が何だったのか分からなくなる例も多々あります。

ましてや上海語となると状況は更に混乱します。

意外なことに、上海語には文字がありません(※諸説あり)。

現在使用している漢字も表記はほぼ「当て字」、文法は基本的に現代中国語と

同じですが、発音や単語の学習は「口伝」以外方法がありません。そのため

私は上海語は概ね聞き取れるものの一言も話せません。今回はそんな

“名前は読めないけどおいしい洋菓子”を取り扱っている老舗をご紹介します。

『とうとうレストランでもバーでもなくなった・・・』

『やっぱりコンセプトが迷子に・・・』

とお思いの方、ご心配は無用です。例によってまたタイトルを少し変えれば

いいだけです。今月のタイトルを目を凝らしてもう一度ご覧ください。

中国で心を健やかに保つコツは如何なるツッコミを受けても

「過去は捨てろ!大切なのは今だ!」

と真顔で相手に返し、自分もそう信じることです。

旧フランス租界、各国領事館や図書館にも近く、冒頭でご紹介の林氏も

かつて住んでいた上海屈指の“Posh-end”にある名店はこちらです。

 

申申面包店

住所:復興路8

電話:02164373493

 

日系、韓国系、ヨーロッパ系など様々なお店が入り乱れるベーカリー

激戦区の上海においてこちらのお店はその外観もパンも目を疑うほどに

素朴ですが、かつて全盛期の上海ではパン・洋菓子の人気を競合

“静安面包房(こちらは今も多数店舗あり)”と二分した名店、数店舗しか

ないにも関わらず2015年3月放送のTV番組でも地元の人気ベーカリー投票の

2位にランクインしています。

特徴は良心的価格と昔ながらの伝統のレシピです。

味は日本や現代の欧米のパンに慣れていると若干物足りなく思えますが、

この味こそが1920年代~30年代に初代フランス人オーナーが持ち込んだ

当時のヨーロッパのレシピそのものの味だそうです。ここでの一番のお勧めは

上海語で「哈斗(発音はカタカナ表記不可)」と呼ばれるエクレアです。

哈斗は他の老舗ベーカリーでも販売がありますが、ここの哈斗はとにかく

巨大です。どのくらい巨大かというと、初めて見た際『何コレ?草鞋?』と

思わず日本語でつぶやいたほど、普通のエクレアの2-3本分あり、

外見に反してやさしい甘さが特徴。有名パティシエの作るきらびやかな

ケーキがいくらでも手に入る現在、往時の様子を忠実に再現する哈斗は

もはや無形文化財と呼んでもよいかもしれません。

ところで今回、何故写真がないのかと申しますと、肝心の哈斗が買えなかった

からです。この店はまだよい方ですが、上海のケーキの名店“紅宝石”や

元祖ロシア風洋菓子の“哈尔滨食品厂”などチェーン展開の老舗は昼間に

高齢者が在庫をすべて買い占めるため人気商品は夕方や夜に行くとほぼ

売り切れ、昼は昼で店が大混雑します。

買い物の際には『おねーさん!おねーさん!こっちこっち!』と

カウンター越しの店員にプロのナンパ師や路上のキャッチセールスも青くなる

ほどの決死のアピールが必須、必要に応じて上海語話者の助けを借りるなど、

狩りの心構えでお出かけください。

 

※記事の内容はあくまでも推薦者個人の見解であり、

 弊社の社としての見解を示すものではございません。

※記事の著作権は筆者及び筆者の所属先に属するものであり、

 無断転載は固くお断りします。