バックナンバー 社員の日記 2014年8月号

◇◇◇連載 ()新入社員のSGS日記 2014年8月号(前編)◇◇◇ 

 

残暑お見舞い申し上げます。しがない納税者、Sでございます。

今年の8月を以って上海の滞在もいよいよ11年目に突入いたしましたが

これだけの年月を経て最近ようやく分かった事があります。税金の用途です。

先日、自宅のポストに下記の人民政府からの配布物が投函されていました。

 

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(写真:人民政府からの配布物。処分に困るプレゼントの典型です。)

 

ナゾの木片が転がり出てきた時は新手のテロかと身構えましたが、

「健康生活マニュアル」なる同封の冊子を読むと、これで手のひらの

「穴位」を押せとのこと。穴位とは即ちツボのことで、この木片はツボ押し器と

ようやく判明しました。ツボは中国医学のみならず、武術を極める上でも非常に

重要な人体の急所です。同日、TVでは丁度折よく少林寺と勢力を二分する

中国の武術の本山・武当山の長である鐘雲龍氏がツボの重要性について

解説しており、曰く非常に重要なツボは36ヶ所、それに続く重点ツボが

人体には72箇所も存在するそうです。これだけツボだらけだとどこを押しても

とりあえず何かのツボにはヒットしそうですがやみくもに押すと健康に

害が出る可能性もあり、素人判断は危険なようです。

仏教系の少林寺に対し武当山は道教系であり、「健康法」の代名詞である

太極拳の家元も実はこちらにあたります。緩やかな動きが特徴の太極拳ですが

『太極拳も本来は攻撃性を備えた武術です。攻撃をかわし、相手の重心を

ひたすらずらしていくことで隙を作り、反撃します』と

鐘氏が本場の拳法を披露。

 

 

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(写真:右側が鐘氏。従来の太極拳のイメージを覆すキレのある動き)

 

私の中国武術に対する理解は「♪よーほほーほー」のフレーズが耳に残る

かの名(迷)曲“Kung Fu Fighting”の域に留まっており、日本へ来て『ニンジャ!

NINJYA!』と騒ぐ欧米人とほぼ変わらないレベルですが、それでも  

『アクション映画のように何メートルも人が吹っ飛ぶようなことはまずありません』

『武術は一にも二にもひたすら苦しい練習あるのみです』という鐘氏の

真摯な解説から、空いた時間に自宅でちょこちょこツボを押した程度で

カンフー・マスターのツボ知識が身につくはずなどないことだけは分かりました。

ましてや無料配布の木片を握り締めたくらいでは「まぁ、やらないよりはマシ」

という限りなくプラシーボ効果に近い成果しか得られず、健康に劇的な

改善が見られることはないでしょう。

一納税者として色々考えた夏の日でありました。

控除された税金に涙しつつ、今月も最新のニュースをご紹介します!

 

8月某日  在りし日の思い出シリーズその2 中国の病院

 

私には夢があります。といってもキング牧師のような崇高な理想ではありません。

もっと現実的で庶民的、以前にもご紹介したとおり「健康に長生きしたい」

だけです。近所でも悪名高いひねくれた老人になり、お小遣いの少ない

学生の前で最新のモバイルガジェットを見せびらかすような楽しい毎日を

送りたいと思っております。しかしこのところどうも元々弱かった消化器系の

調子が思わしくありません。私の楽しい老後計画にズレが!ということで、

本来はここでおとなしく病院に行って医師に相談するのが賢明ですが、

中国の病院はどうも苦手で二の足を踏んでしまいます。

中国には個人の開業医がほぼ皆無で、単なる風邪でも大型の大学病院に

行くのですがとにかく延々と並びます。5-6時間待ちはザラです。

数百元を上乗せすると予約制の専門医が診察してくれますが、その予約を

取るのに今度は数週間、数ヶ月待ちます。名医になると年単位で待ちます。

さらにもう少し上乗せすると「VIP診察」を受診でき、こちらは待ち時間

ゼロで設備もきれいですが、全体的に過保護な治療をされるので、普通の

風邪で抗生物質を処方されたり、ちょっとした食あたりで点滴を三本も

打たれたり、病院の収入に貢献する羽目になります。私は2008年夏、

ある大型病院の外国人病棟で2泊3日の簡単な手術を受けましたが、待遇が

過保護な割に対応はいい加減というよくない思い出があります。

私はぼんやりした性格を反映してか心拍がやや遅いのですが、心拍数が

60以下だと執刀できないらしく「ちょっとその辺走ってきて」。

それでいいのか。

手術とも呼べない手術にも関わらず手術室にも8人が待機していながら、

部分麻酔が切れてきて「ちょっと痛いんですけど」と訴えても返ってきた

返事は「坚持一下,胜利就在眼前!(頑張れ、勝利はもう目の前だ!)」

何と戦っているんでしょうか。

その上当時はオリンピック期間中だったためナースステーションから

ひっきりなしに誰か部屋に来て私の病室のテレビを確認します。

麻酔が切れたばかりで眠いのですが

「女子の体操が始まるよ!ほらほら!」と電動ベッドを直角にされては眠れません。

結局、五分おきに入ってくる彼女たちに試合の情況を報告する大役を仰せつかり

「どうなった?」

『あー・・・アメリカが平均台で減点、中国が首位を独走中・・・』

「そう、ちょっとしたらまた来るから!」

『眠いなぁ、寝たいなぁ』

「また来るから!」

どんなに腕がよく設備が最新鋭でもよほどの大病でない限りもう入院はいやです。

ところで、現在の私のような不規則な生活が招いた不調は生活習慣から根本的に

見直しをするのが一番です。となればアレです。中国の無形文化財の出番です。

アレとは一体何なのでしょうか。答えは後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇連載 ()新入社員のSGS日記 2014年8月号(後編)◇◇◇

 

中国の文化遺産として真っ先に思い浮かぶのは中国医学です。

本場の中国医学=中医は日本における漢方の位置づけとは異なり、

西洋医学=西医と勢力を二分する、あるいはそれ以上の勢力を誇っており、

薬局も「西薬」と「中薬」にコーナーが分かれ、大きな病院には必ず

「中医科」があります。しかし中薬はたとえバンドエイドや湿布であっても

ものすごい薬草の匂いがし、西医にしかなじみのない外国人が

「とんでもなくまずい」「死ぬほどまずい」「挫折は確実」

と評判の煎じ薬に挑戦するのはとても勇気が要るのも事実です。

どんな薬なのでしょうか。 

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2012年、私は慢性胃炎の治療のため中医の有名大型医院を訪れました。

予約数ヶ月待ちの名医がいるらしく、中国ならではのコネを駆使して

予約をゲット。持つべきものはよい友達です。先生は予想に反して30代後半と

思しき男性、当初は不安でしたが、挨拶もそこそこに始まった一方的な診断に

即座に考えを改めました。

『あぁ、典型的な“熱が内側にこもる”タイプです。眩暈がしてのどが渇く

 でしょう?手足が冷えますね?胃カメラでは“表層性胃炎”とでも

 診断されましたか?』

余談ですがピロリ菌は中国語で“幽门螺杆菌”と言います。

覚えておくと何かと便利です。

しかし何故、顔を見ただけで胃カメラの診断結果まで分かるのか?

『肌のツヤ、髪のツヤ、爪の状態はもちろんですが、歩き方や話し方、

 体型や声からもライフスタイルはだいたい分かります。

 まぁ、症状は軽そうなので心配ないでしょう』

初見で不摂生な生活までお見通し。数千年の臨床研究の底力を見た思いでした。

その後、中医の基礎である医食同源に基づいた解説と、採るべき食べ物と

避けるべき食べ物などのアドバイスを受け、いよいよ本題に入ります。

懸念の処方箋=中薬です。

治療は大体1クール3ヶ月、まずは2週間様子を見て徐々に薬を調整して

いくそうです。ここまでは問題ありません。私が青ざめたのはカウンターで

薬を受け取ってからです。たった二週間分なのに両手に抱えるほどの大きな

ビニール袋が2個出てきたからです。中には小分けにした名前も分からぬ

乾燥木の実や葉、木の小枝(としか形容できない)が山のように入っています。

これはまずい。あわてて診察室に取って返しましたが

「先生!先生!なんかものすごい量の何かが!」

動揺のあまり発言も支離滅裂です。

説明によるとこれを一日二回、弱火で絶対に沸騰させずに二時間煮て飲めとのこと。

中医の病院には「代煎」といって薬を煮て一回分ずつ真空パックに詰めてくれる

有料サービスもあるのですが、時間が経つと効果が薄れるので自分で煮ろとの指示。

しかし私は手を抜くことにかけてだけは人一倍頭が回りますので、

さっそくネットで“全自動中薬壺”なる勝手に薬を煮てくれるタイマー付きの

巨大な急須(60元)を買いました。処方箋にはラベルがなく、まずは小分けの

ナゾの多種生薬を同じ種類ごとに分け、一回に何を何袋煮詰めるのか

把握しなければなりません。トランプの神経衰弱を生薬でやるようなもので、

仕分けだけで小一時間かかりました。肝心の薬の味ですが、

なんともいえないあのまずさを形容するには『泥水』の一言しかありません。

中国人でも嫌がる方が多いのですが、エスプレッソが好物の方であれば

耐えられる程度の苦味です。が、横着して機械で煮たのが悪かったのか

服用期間が短すぎたのか、残念ながら胃炎への効果は見られませんでした。

ところが更に数週間後、突然胃炎は治りました。

何故か。それはもしまた暴飲暴食を続け症状が悪化したら、毎日定時に

薬を煮なければならず、面倒で面倒でたまらないので飲食に気をつけて

いるうちに自然回復したせいです。診察の途中、例の先生は

「面倒がってはいけません」「健康的な生活を習慣にしなさい」を

何度も繰り返していましたが、私のずさんな性格を見通した上での

アドバイスだったとしたら噂に違わぬ稀代の名医です。

友人によると残念ながらその後先生は海外へ渡られたそうで

再診してもらえないのが悔やまれますが、生活習慣病に関しては強力な薬の

乱用が中国でも問題になっている西医より、中医でじっくり体質改善に

取り組む方が効果が明らかなことがよく分かりました。但し、もし私と同様に

「明らかに不摂生」「人の言うことをあまり聞かない」「なんでもすぐ横着する」

という自覚をお持ちの方は、普通の生活に戻すだけで症状が劇的に改善される

可能性がありますので、まずはそちらをお試し下さい。

 

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