バックナンバー 社員の日記 2014年6月号

◇◇◇新入社員()日記 2014年6月号(前編)◇◇◇ 

 

徹底したインドア派、動かないことには定評あるSでございます。

特に球技には縁がなく、なかなか身近に接する機会がありません。

しかし、中国のサッカー中継となれば話は別で、時間の許す限り見ています。

なぜか。それはもはや漫才の域に達した実況中継の大ファンだからです。

説明より具体例のほうがよりイメージしやすいかと思いますので、

ここで2010年、4年前のW杯の際に思わずメモした実況の様子を日本語訳で

お伝えします。

『アイヤァァァァ!!何故!何故今シュートをしなかった!?』

「いったい何を考えているんでしょうね彼は!」

『審判イエローカードを・・・出さない!?私なら出しますけどね!』

「引き続きボールを・・・シュート!漂亮!(=美しい・すばらしいの意)」

『漂亮ですが外してちゃ意味がない!』

それこそ“漂亮”なツッコミですが、解説者本人はおそらく無意識でしょう。

ここ一番でシュートが外れると二人の解説者が

『「アイヤアアアアアアアアア!!」』

とハモるのがお約束です。これ聞きたさに見ている試合も結構あります。

時折感情的な発言が飛び出すので国内からは一部苦情も出ているようですが、

友人と観戦しているようで私は好きです。今年の実況も叫び声が冴えています。

過度な興奮が人体に害であることは周知の事実ですが、そこでおとなしく

落ち着くようなことはせず、ビジネスに結びつけるのが中国の驚くべき商才。

W杯で興奮しすぎて体を壊した人のための商業保険が巷で話題になっています。

http://finance.sina.com.cn/money/insurance/xpsd/20140624/095819504574.shtml

(2014年6月24日 新浪経済)

「フーリガン被害」「飲みすぎ」「叫びすぎによる失声」

「夜更かしで目が赤くなる」などが対象、最高2,000元まで補償されるそうで、

保険自体の売り上げではなく企業の知名度アップと話題づくりのために

売り出されているとのこと。しかしそれでもW杯期間中“深夜の食べ過ぎ

胃腸炎保険”がすでに1,082件も販売されていることから、中国の熱狂ぶりも

相当なものであるとうかがえます。

皆様も夜更かしと健康にはご注意ください。私はもうダメです。眠いです。

大量のコーヒーで体内カフェイン濃度を上げつつ、今月もニュースをご紹介します!

 

6月某日  目標は『羽化登仙』 ~杭州暴走旅行~

 

この度上海在住満10年にして始めて杭州へ行く機会に恵まれました。

今月の特集で後述するように、杭州は上海人に絶大な人気を誇る旅行先です。

行った事がないとでも言おうものなら、今まで何をしてきたのかと尋問されます。

今回は大分慣れてきた車の運転の腕試しを兼ね、高速道路を飛ばして参りました。

世界遺産である西湖は噂に聞く以上に美しく整備された観光地でした。

当日はあいにく土砂降りでしたが、雨に煙る湖もなかなか風情があるものです。

家族や恋人と湖畔をのんびりととそぞろ歩くのが正しい観光です。まちがっても

「前方,靠右侧行驶。第二路口左转(この先、右側に寄り二つ目の角を左折です)」

『左转干吗要靠右行驶啊? 是右转吧?(左折で何で右側に寄るの?右折でしょ?)』

「前方,左转(そこ、左折です)」『喂!(おい!)』

「您已偏离路线(規定のルートから外れました)」『喂!?(おい!?)』

などと、カーナビと不毛な喧嘩をしながら暴走する場所ではありません。

お察しの通り私のことです。

老後はテレビに向かって話しかけるタイプになるでしょう。

ここまで来ておいて今更ですが、私は所謂観光旅行というものがとても苦手です。

ごみごみした街中で育ったので、自然に囲まれると時間をもてあましてしまいます。

そのため旅先は都市ばかりの上、本屋から半日出てこなかったり、博物館で一日

つぶしてしまったり、どうでもいい調査に熱中しているうちに旅程が終わって

しまいます。本人はとても楽しいのですが、同行者にとっては迷惑以外の

何者でもないでしょう。

その点、杭州は湖を中心に街が発展しているので、辺鄙なところへ行かずとも

市の中心部のホテルの前で蓮の群生や景色を楽しめ、とても便利です。

細身の美女が傘でも差して佇んでいれば景色として絵になるかもしれませんが、

気の抜けた格好の外国人が鼻歌を歌いながらうろうろ徘徊していては台無しです。

湖畔には洒落た名の付いた亭(あづまや)が点在しており、琵琶や古琴を

爪弾いたり、書をたしなんだり詩を吟じてみたりといった風流な遊びが

よく似合います。車で来ているのに未練がましくビールの広告の前で立ち止まる

ような野蛮人は不要です。

ええ、いずれも私のことです。雅さとはどうも縁がありません。

 

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(写真:のどかな湖畔。巨大な西湖には柵がありません)

 

そんな観光地に来て観光をせずズレた行動ばかりの私ですが、実は今回の

旅行では子供の頃から憧れてやまない仙人の足跡を訪ねるという確固たる

目的がありました。

仙人。あまりに浮世離れした単語に周囲からは目を剥かれっぱなしですが、

私は本気です。学生時代からその手の本を読み漁り、予習にはぬかりありません。

右手には資本主義社会の権化のような某コーヒーチェーンのコーヒー、

左手には常にオンラインのスマホ、その上『山登りは嫌だから行かれる

ところまで車で行こう。それでも遠いようならネットで画像だけ検索しよう』と

俗気が服を着て歩いているような私は、果たして無事目的地に辿り着ける

のでしょうか。結果は後半、ニュースレターの最後へ!

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◇◇◇新入社員()日記 2014年6月号(後編)◇◇◇

 

「仙人になりたい」などと唐突に口走ると精神状態を疑われること必須ですが、

「健康で長生きしたい」という普遍的な願いも元を正せば同じ欲求に起因します。

ただちょっとエスカレートしすぎただけです。西洋医学が錬金術の研究成果に

負うところが多いように、仙人や仙薬の研究が中国医学の発展に与えた影響も

計り知れません。体系的に知識を身につけ、然るべき方向からアプローチすれば

現代医学では実現不可能な長寿を手に入れられる可能性もゼロではありませんが、

時間に追われる会社員としては、もっと、こう、手っ取り早くその夢をかなえたい。

「これ一粒であなたも仙人」的な万能薬『金丹』が手に入れば万事解決です。

そういう即物的な姿勢が既にもうダメなんじゃないかという冷静な意見は無視し、

私はある仙人が修行したという山頂の洞窟を訪れました。一体どこなのでしょうか。

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西湖北側の山の頂に「韬光寺」という寺があります。儒・道・仏の三教の

聖地であり、非常に小さな規模ながら現代でも観光に訪れる人が後を絶ちません。

ここは白居易が名を記した金蓮池で有名なのですが、中国八仙の一人

「呂洞賓」が丹薬を練って修行していたと言われる伝説の場所でもあります。

八仙とは名の通り、八人の著名な仙人の集まりです。あくまでも個人の印象ですが、

よく比較される日本の七福神というよりはむしろゴレンジャー系の戦隊モノや

“アベンジャーズ”或いは“X-MEN”のような一癖ある超人の集まりに近いように

思います。ただし エピソードは全て“勧善懲悪”モノとは限らず、いかにも仙人

らしくかなり自由な行動も多々ありますので、正義のヒーローの活劇を

期待していると時々拍子抜けします。

呂洞賓は八仙の長、ゴレンジャーでいうところの「リーダー(赤)」にあたる

仙人です。彼の仙薬ラボ・・・いえ、練丹跡地である韬光寺は車が入れない

山道の急な階段を延々上ったところにあります。試されるインドア派の限界。

ただひたすら石段を登ること30分、想像していた規模の10分の1くらいの

小さなお堂が竹藪の陰にようやく見えてきましたが、ここで突然職業病の発作が。

境内に設置されている消防服やヘルメットがどうしても気になります。

これはアレです。「職業健康安全」要求を忠実に守っているに違いありません。

 

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(写真:韬光寺境内のヘルメット等。OHSASあたりを取得されたのでしょうか)

 

ふと見ると件の金連池もすぐ右手に。確かに白居易ゆかりの湧き水との説明。

どう見ても金魚用の池ですが、観光地では『歴史ロマンフィルター』を目に

装着し往時の様子を想像すると、がっかりした気分が多少軽減されることが

あります。気を取り直して境内の階段を更に上ると山頂の岩壁に張り付くように

建っている呂洞賓のお堂と岩の隙間の裏に、彼が修行していたという洞窟が

ありました。大人がしゃがんでようやく納まるような小ささは洞窟ではなく

単なる穴です。再び歴史ロマンフィルターの出番ですが何度見直しても

雨宿りにも事欠くサイズ、丹薬のかけらをくまなく探すつもりで来ましたが、

とてもそれどころではありません。

やはり地道に修行に勤しんだ者にしか不老不死の丹薬は授けられないようです。

ところで、30分かけて登った山は30分かけて下りなければなりません。

転がり落ちるようにしてなんとかふもとに帰還、これを書いている6日目現在も

筋肉痛が全くなおらず日常生活に支障をきたしています。深刻な運動不足が

身に沁みましたが、インドア派のプライドにかけて運動はせず、幻の仙薬で

一発逆転の不老不死を狙うべく、今後も中国の観光地を回りたいと思います。

さて、この日記も皆様のおかげで連載12回目を迎えることができました。

もはや業務とは何の関係もない、単なる個人の記録にお付き合いいただき

本当にありがとうございました。来月の一周年記念からは特集も一新しますので

是非、引き続きご愛読賜れば幸いでございます。

 

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